きっとこういう話なんだろうなーと思ってた通り(ある程度は)だったんだけど、それでも大事なことが詰め込まれている映画だと思った。
実話を元にしている。バングラデシュから父親と2人でフランスにやってきたファヒム。母国では安全に暮らせずなんとかパリにたどり着くも、フランス語は話せないし仕事もない、仕事がないと滞在許可が出ない、難民申請には様々な条件や書類が揃わないといけない。
難民が置かれた厳しい事情、それを助ける仕組み、手を貸し見守る人たち。もちろん歓迎する人ばかりじゃないし、対応に戸惑う人、あからさまに差別的な態度をとる人もいる。
でも前提として、これは私の体験でもあるのだけど、彼らは多様さに慣れているのでフランス語ができないとか文化や宗教が違うとかに対しての抵抗感って薄いんだよね。言葉や見た目で人間を判断してない。
特に保護センターやチェスクラブの子供たち、なんにも気にしてない。そしてファヒムはあっという間にフランス語を覚えていく。
チェスクラブの先生であるシルヴァンと、マチルドの存在がファヒム親子にとって超デカい。ファヒムにチェスの才能があったというきっかけはあるにせよ、難民親子を人として大事にする大人が身近にいたこと。
「寛容さは本からは学べない」
「フランスは人権の国なのか、それとも人権を宣言しただけの国なのか」
こういうことを言えるのが大人なのだよな。私もちゃんと大人でいたい。
日本にこういう大人がどれだけいるかとも考える。日本ではここが非常に心もとない。
難民に限らず、外国で暮らす第一世代と第二世代の適応力の差というのも描かれていたように思う。8歳のファヒムはどんどんフランス語を覚える。チェスクラブや学校に通うことでフランス語で過ごし、フランス人の振る舞いを吸収する。(父親にフランス語を通訳したり、ナイフフォークで食事をする場面)残酷にも見えるけど現実でもある。
また、優勝するほどのチェスの才能がファヒムにあったから特別に滞在許可が出るのか、というところも引っかからないでもない。EUとしての法律があり、厳格に決まっている難民への対応をどう適応しどう例外を認めるか。全ての人を無条件に受け入れられるわけではない以上どこかに線引きが必要であり、であるからこそ例外的な運用も認められるわけなのだけど、では、あのコミュニティの他のみんなはどう暮らしていくのか、というのも気になってしまう。きれいごとだけでは済まないのだけど…。
私がこの映画で思い出したのは、自分がパリにいた時の、フランス語もうまくないし日本とフランスなんて地理的距離も文化的距離もこんなに遠いし知り合ってそんなに長くもないのに、それでもこんなにわかりあえるんだ、こんなに自分のことを思ってくれる人たちがいるんだ、っていう感動。
日本人同士ならわかりあえるとか、日本語なら意思疎通できる、と当たり前のように考えてる人もいるかもしれないけど、私はそれは信じてない。国籍や言語じゃないんですよ。
あの経験があるから、この映画に出てくる色々なことが、そうだろうな、と思えた。
あと、「フランスも難民問題大変なんですね」みたいな感想って一体、どれだけ自国の難民問題に無知無関心なのかと唖然とする。フランスと比べられるようなレベルじゃないだろう日本。せっかくこの作品を観たのなら、じゃあ日本では、日本だったら、と考えてみてもいいのでは。監督がこの映画を撮った理由ってそういうところにあると思うぞ。
ファヒムは実在し今もフランスで暮らしていて、完成したこの映画を観た感想をインタビューしたものが公式サイトに載っていた。興味深い。