アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

The Kindness of Strangers(ニューヨーク 親切なロシア料理店)

そろそろ今年の映画見納めの時期ね。

 

映画『ニューヨーク 親切なロシア料理店』公式サイト

 

まだ小さい息子2人を連れてNYCに逃げてきたクララはお金も頼れる人もなく、車もなくなり、寝るところ、食べるもの、着るものにも困る。子供たちに広い世界を見せたいと願ってのこととはいえ、嘘をついたり万引きしたりしながらなんとか取り繕おうとする。でもそれは長続きしない。無理もない。

 

ニューヨークらしくいろんな人がいて、都会ゆえの活気と孤独。孤独だけどみんな優しいのがよい。辛い過去を他人に当たり散らさない。困ってる人を目の前にしても立場の強さを利用しない。見知らぬ者同士が手助けでつながっていく。

 

いきなり大きなことはできなくても、目の前で困っている人に自分に無理なくできることで、手を差し伸べる。同じ街にいる人間同士としての共存。

私はこれをパリに暮らしてみて感じたのだった。見知らぬ他人同士だけど、同じ街に住む者同士うっすらと感じる連帯。自分もここにいていいんだと思えたものだった。

 

この映画のクララのようにシリアスな状況になったとき、手を差し伸べてくれる人がいるだろうかと、今、東京にいる私は若干不安になる。なので、困ってる人がいて自分にできることがあれば、それが家族や知り合いでなくても、連帯できたらと思う。

 

人を救うのは、家族や”絆”でなくてもいいのだよね。”絆”が声高に叫ばれるとき、同調圧力が発生している。日本の人は規則には忠実だけど、規則にないと動かない、動けない傾向があるのではないか。やれって言われてないし。余計な事して巻き込まれた困る、みたいな。そういうことを超えて、できることをできるように。

 

それと同時にやっぱり公助も大事よね。こんなご時世だからあらためて思う。人々の善意にまかせていたら、運・不運に左右されてしまう。本作のクララは不幸中の幸いというか、温かい人たちに出会った。しかしクララのような苦境につけこむ悪い奴も現実社会にはいっぱいいるだろう。

 

本作の監督、ロネ・シェルフィグ監督はデンマーク出身。なるほど、舞台はニューヨークだけど出演俳優たちも出身さまざまで、その多様さがヨーロッパ的でもある。強者を描くのでないところもヨーロッパ的と言えなくもない。無駄に大げさにすることなく進むところも好感。演技も脚本も。

 

タハール・ラヒム久しぶりに見た!ジャック・オディアール監督の≪Un prophète≫『預言者』は衝撃だったなー。あれ2009年だって。

 

今年後半は女性監督の素晴らしい作品が何本もあって、どれもそれぞれの味わいがあって印象深い。

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