アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

Nomadland(ノマドランド)

公開を待っていた。

searchlightpictures.jp

 

主演のフランシス・マクドーマンドの演技が凄い。実際にノマドたちの中に入り、溶け込んでいる。

夫を亡くし、住んでいた家も街も失い、とてつもない喪失感と共に転々とノマド生活をしているファーン。古いヴァンがHOME。季節労働者として暮している中でノマド同士の助け合いや心の深いところでの交流があり、しかしそれは長期に渡って時間を共有するような結びつきではなく、出会っては別れ、またいつかどこかで再会する、を繰り返す。

 

ファーンは誰ともうまくやれるし、ノマドとして生きているのは人付き合いが下手だからではない。一緒に住もうと誘われることもある。ファーンが望めばそれもできる。だけど、なんだよね。

 

生きている間の時間をどう過ごすか。どこで誰と何をして過ごしたいか。

考えさせられる。

 

キャンピングカーを住まいとして繁忙期のアマゾン倉庫で働く人たちのドキュメンタリーを見たことがあったので、ファーンのような人たちの生き方は知っていた。何かのきっかけで職を失い、家を失い、大企業の”調整弁”として短期雇用される人たち。本当は定住したい人もいれば、そうでない人もいるのかもしれない。自由で気楽な放浪の旅のように見えるけど、肉体的にも厳しいし、高齢になれば病気にもなる。私にはできるだろうか、きっと無理だ…どうしよう…と思った。

 

作品中にも出てくるけど、ノマドという生き方はかつてのアメリカの開拓者に通じるような勇敢な生き方という見方もある。確かに誰でもマネできる生き方ではない。

 

アメリカ本土の地理に疎いのだけど、広大なアメリカ大陸の雄大な自然というのが大きな要素だなと思った。大きな空間があり、場所の取り合いをせずに、人と人が距離をとって居ることができる。時には集まって、また散らばって、またいつかどこかで再会する。それを可能にする土地の広大さ。そしてそれを認める人々の心の雄大さ。

 

ファーンの悲しみ、さみしさはどれほどのものかと考える。心を通わせる人も何人もいるので孤独ではないとも言える。でも同時に非常に孤独とも思える。自分だったらどうなるだろうか。ファーンの親しい人たちとのやり取りも胸を打つものが多かった。ああ、スワンキー。。

一方デイヴとの生き方の違いは切ないと同時に必然でもあった。屋根のある暮らし、家族。不注意でファーンの大事な皿を壊すようなタイプだからなあ、デイヴ。あそこでのあの選択がファーンの生き方だ。

 

See you down the road.

 

ドキュメンタリーのようでもあり、独特の雰囲気を持った作品だった。あれこれたくさん考えることが思い浮かぶのはよい作品の証。

f:id:cocoirodouce:20210329210448j:image