アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

新国立劇場バレエ団『コッペリア』無観客ライブ配信(全4公演)

自宅でコッペリア

※5/5追記しました

※5/4追記しました

 

『コッペリア』無観客ライブ配信(無料)のお知らせ(2021年5月2, 4, 5, 8日) | 新国立劇場 バレエ&ダンス

 

緊急事態宣言により観客を入れての公演ができなくなってしまったゴールデンウイークの新国立劇場。新国のみならず様々な公演が多大な影響を受けている。「コロナ禍だから仕方がない」とも言いきれず、対策の失敗による”人災”の面が大きいと個人的には思っているので、今回の急な宣言とそれに伴う劇場等の閉鎖には心底怒っている。(政府に対して)

 

こんな大変な中で無料配信を、しかもなんとまさかの4キャスト4公演を無料配信するという新国の決断。びっくりした。

 

お出かけが難しいゴールデンウィーク、ご観劇を予定されていたお客様からバレエは初めてという方まで、この機会にぜひ多くの皆様にフランスのエスプリ薫る、ローラン・プティの傑作『コッペリア』をご自宅でお楽しみいただけましたら幸いです。 

 

有料でいいと思うんだけど、でも、無料だからこそ見る人、無料なら見てみるかと思う人というのがいるだろうから、 ”国立”としては無料でできるだけ多くの人に見てもらうという選択になったのかな。

 

さてこの『コッペリア』はローラン・プティ版。新国では2007年に初演しているらしい。プティが健在の頃ね。舞台はよくあるほのぼのとした田舎ではなく、フランスの街の設定。まあプティですから、都会的であったり、退廃的であったりというのがあるのかなあと思って初日を観た。

 

2021年5月2日(日)14:00

【スワニルダ】米沢 唯
【フランツ】井澤 駿
【コッペリウス】中島駿野

 

公演リーフレットもオンラインで。

coppelia_leaflet_28p

 

さて、どのあたりに”フランスのエスプリ”が薫っただろうか。どういうところにプティらしさやフランスらしさを感じただろうか。プティ版『コッペリア』は子供向け作品なのか?私はもっと大人でダークな世界を見たいのよ。プティだし。

 

これは個人的な好みの問題ではあるけれども、それと同時に、プティらしさの問題でもあると思うんだ。他のプティ作品を思い出してみるとプティは「美しい女性にダメにされる男」の話が好きだよね。(笑)

美しい女性に魅惑され、魅力に抗えず、命を落としさえする。『コッペリア』では死にこそしないけど、最後の場面を見るとコッペリウスにその系譜がある。

なので、コッペリウスが超大事なものを失うその原因となるスワニルダがどんな女性かが超大事なわけだよね。ここでいつもの、「新国もやもや」にぶち当たるわけだ。(完全に個人の感想です)

 

”コミカルでキュート”というのは子供っぽいとか子供向けというのとは違うはず。なんだけど、途中「これは子供向け作品なのか??」って思っちゃったよ。もちろん受け取り方は人それぞれだと思うのだけど。新国でいつも感じる表情の作り方、表現方法にどうしても違和感を感じてしまうし、それが今回はプティ作品の女性像となるとあまりにイメージと違いすぎて…。

過去の『マノン』でもそうだったけど、描かれる女性像のあまりの違いにどうしても違和感なしには観られない。好みに合わないなら観なきゃいいじゃんってなるんだけど。(でも観る)

 

これは「女性像」として一般にイメージする時の、フランスと日本の違いの大きさなのかもしれない。フランスの大人の女性にあのスワニルダはいない。(勝手に断言してすまぬ)なんなら女子小中学生にだっていない可能性ある。それくらい違う。

 

これは私の勝手な期待値の問題なんだろうか。というよりは、上演される劇場のある社会にとっての「女性像」の違いの問題なのではないかと、私は考えている。どんな女性が好ましく思われているか、何を女性らしさとみなしているか、の違い。

 

また、プティ作品のプティらしさというのは実は振付よりも踊るダンサー自身によって作られていたのかもしれないなあというのも、今回見て思ったこと。まず”大人”なダンサーでなければならない。そして”強い女”でなければならない。そんな気がした。あ、男性ダンサーもです、大人、もちろん。自己があること。

 

もう少し続けていろいろ考えていると、では、新国のキャラにプティ作品は合っているのか?というところまでくる。プティもしくはフランスが描き出す作品の世界観と、新国の持っている特徴・特長は、ある意味対極くらい遠くない?

なんて私が言うのはあまりに勝手だけども。でも、それぞれのカンパニーのキャラに合ったバージョン、作品というのは確実にあると思うので。

 

初日の配役ではコッペリウスの中島駿野さんよかったです。若いダンサーのようだけど、大抜擢だったんですね。プティなのでもっと狂人でもよかったと思うけど、雰囲気好みでした。最後がもっとディープでダークになるのが好きだけど、それは私の趣味ですね。(笑)

 

まだ3公演あるのでまた観るよ!

2021年5月4日(火・祝)14:00

【スワニルダ】木村優
【フランツ】福岡雄大
【コッペリウス】山本隆之

2021年5月5日(水・祝)14:00

【スワニルダ】池田理沙子
【フランツ】奥村康祐
【コッペリウス】中島駿野

2021年5月8日(土)14:00

【スワニルダ】小野絢子
【フランツ】渡邊峻郁
【コッペリウス】山本隆之

 

5/4追記:

最初の方見逃したけど2日目のキャストも観た。初日より良かったな。引き続き「プティらしさとは…」となってはいるけど。スワニルダとフランツの相性なのかな、このキャストの方が活きてる感じがする。そしてコッペリウスが細かいところまで行き届いてる。経験豊かな山本さんの役作りだろうか。『コッペリア』ってコッペリウスの話だと思うので、人生の悲哀とか、人間の性とか、ラストに重みを与えられるダンサーがやるべき役なんだろうな。

初日も今回も、スワニルダがかわいい、キュートっていう感想が多いのだけど、「朝ドラのヒロイン」というワードがめちゃくちゃそれだっ!!ってなった。新国の女性キャラクターの作り方、目指す方向性が朝ドラのヒロイン系なんだ。元気で健気で溌溂としてて。それだそれ。(個人の感想です)

 

5/5追記:

3キャスト目なんだけど、私の中での結論は出ました。プティ向いてない。なぜあえてプティ版を踊るのか、そこがわからないんですよね。逆に自分がどこにプティらしさを見ていたのかということを考えさせられた。振付はあくまでスタートで、その上に何をプラスできるか。もっと自信や大胆さがあってもよいのではないか。それらがないせいか”発表会風味”を感じてしまう。いやもうほんと何様だよって感じで申し訳ない。

一方で、”プティ版”にこだわらずに観る人には好評なのかなと、ざっと感想を読んだところではそんな印象。同じ舞台も、観る側の期待によって見え方も変わるよね。

中島さんのコッペリウスはエレガントで雰囲気があってなかなかよいですね。最後の小野/渡邊ペアも見届けようと思う。