アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

Persian Lessons(ペルシャン・レッスン 戦場の教室)

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凄い映画だった。ずっと緊張感を強いられて、早く話が進んで終わってほしいと思っちゃうほど。命がけの偽のペルシャ語レッスン。なんという賭け。

 

多くの他のユダヤ人たちと共にドイツ軍に捕まったジルは、自分はペルシャ人と偽って収容所の大尉に自作の偽ペルシャ語を教えることで生き延びる。日々めちゃくちゃ綱渡り。

 

ナチスの収容所が舞台となると本当に心が重くなるし、人はこんなに残虐になれるのかと信じたくない気持ちにもなる。しかし現実は直視しないといけない。現代のドイツの人たちがどんな視点でどんな気持ちでナチス関係の映画(たくさん作られている)を観ているのか。

日本人にとっても他人事ではなく過去の戦争において日本軍はどちらかと言えばナチス側だしそれは敗戦や原爆によって多くの人が犠牲になり苦しんだこととは別に、事実として受け止めなければならない。この映画を観る時にも、生き残るジルの視点だけでなく、コッホ大尉の視点も、忘れずに引き付けて考えなければいけない。

 

ジルの背負ったものの重みが最後の場面に凝縮されていて泣いてしまった。なんという。死んでいった人々と、生き残った自分。彼はその後どう生きただろう。

 

一方、コッホ大尉の自己愛と視野の狭さは、あーああいう風になるだろうなーっていう、簡単に想像が付くと言うか。自分ではいい人のつもり。情けがあり”お気に入り”の囚人の命を救ってやった、そういう自己満足。すごくその辺にいそうな人物なのよね。

 

戦争という異常な状況の中で、支配者として強権をふるう側と、理不尽に虐げられる側。ドイツ軍の中にいれば安心かというとそうではなく、権力者は簡単に部下を切る。それもまた教訓のひとつ。

 

ジルを演じたナウエル・ペレーズビスカヤート、『BPM』の人か!ドイツ語も堪能なのねー。そしてこれ撮影地がベラルーシらしい。今となってはベラルーシで映画撮影は無理そうだよね…。ヴァディム・パールマン監督はウクライナ出身。

 

過去の戦争、現在の戦争、軍隊、軍事費倍増、など全部つながっていて、暴力の場面が本当に受け入れ難い。私たちはこの先も当事者とならずにいられるだろうか。