アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

The Savior For Sale(ダ・ヴィンチは誰に微笑む)

おもしろかったー!

映画『ダヴィンチは誰に微笑む』公式サイト

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2017年に4億ドルで落札されたダ・ヴィンチ作(?)の絵画『サルバトール・ムンディ』(”世界の救世主”の意)をめぐるドキュメンタリー。当時話題になったの覚えてる。

 

1枚の絵画からこんなにも多くの分野と世界中にまたがる事実を知ることになるとは。盛りだくさん過ぎて頭パンクしそう。

 

ざっくりとした感想としては、こういった古典的なアート業界においてはやっぱりヨーロッパが圧倒的に優位で、したたかで、新参者には厳しい世界なんだなーということ。アメリカですら。ましてロシアやサウジなど新興国にとっては。

 

とにかく登場人物が多い。ダ・ヴィンチの専門家、美術史家、美術商、キュレーター、ジャーナリスト、オークション会社、サウジの王女にフランス政府高官などまで。それぞれの話から、立場や考え方、損得などが見えておもしろい。

 

いくつか印象深かった点を。

 

アメリカの小さなオークション会社のサイトでそれらしき絵を見つけ、落札し入手、そして時間をお金をかけて修復させたニューヨークの美術商。この壮大な話はここからスタートする。修復家と美術商は、この作品はダヴィンチ本人が描いたものではないかと考える。この修復家はのちに作品を”ピカピカに””修復”する。(フランスの専門家から暗に批判されている)

 

次に大きな役割を果たしたのがナショナル・ギャラリーでダ・ヴィンチ展を企画した野心溢れるキュレーター。専門家たちの一致した意見は得られないまま、「サルバトール・ムンディ」をダ・ヴィンチ展に展示する。

 

専門家もスタンスは様々。本物であってほしい人、疑ってる人、どちらもはっきりとした証拠はない。

 

来歴もはっきりせず、真偽も確定していない作品に大金を出す人がついに現れた。それがロシア人大富豪。この人について結構詳しく撮られていて、よくここまで撮らせたよねと思う。本人は一言もしゃべってないけど。

 

しかしロシア人大富豪の代理人をしてたスイス人美術商、身の危険はないのかしらと心配になっちゃった。自ら赤裸々に語ってるし、本人としては後ろ暗いことはないということなんだろうけど。いろいろこわい。

 

そしてフリー・ポートの存在。スイスにあるのは知ってたけど、シンガポールにもあるのね。フリー・ポートに保管している限りどんなに高い美術品であっても税金がかからない。このロシア人大富豪は購入した美術品を自宅に置くことはなく、すべてフリー・ポートに置いているらしい。そうなのかーー。

 

ハイライトはやはり4億ドルで落札された場面。つり上がる値段、湧く会場。

なんという世界。

 

落札したのは誰か。サウジの王子なのか。なぜサウジの王子が?

 

この頃、私はちょうどアブダビに旅行に行きルーヴル・アブダビにも行ったんだが、展示されるのではと噂になってたこの「サルバドール・ムンディ」は不在だった。その裏で起きていたことが本作でわかる。

 

もう、国単位の話になるのよね。額も額だし、国の威信、美術館の信用と権威、といったそれこそオークションでは競り落とさないものがかかっている。

 

最後、ルーヴルの矜持のようなものを見た。

 

いやー。本当に多岐にわたる内容で、単純な作品の真偽の問題では全くなく、なんというか、世界が凝縮されていた。

 

すごいなアート界。

 

あと、出てくる場所の多くを訪れたことがあるというのも、より面白く見られた理由かも。身近になるから。

 

同じく絵画をめぐるドキュメンタリーで「疑惑のカラヴァッジョ」というのをBSで見たのだけどあれもなかなか興味深かった。

今後もどこかで巨匠の「新作」が見つかるかもしれない。おばあちゃんちの屋根裏あたりから出てこないかな(笑)