その11って。どこまでいくの。
ちょっとびっくりな『白鳥の湖』を見たので書きたくなってしまった。
オランダ国立バレエのなんですが。
Streaming Ballet | Dutch National Opera & Ballet
白鳥ならBGM的に再生してもいいかと夜遅い時間に見始めたのだけど、見たことない展開で目が点になった。
まずお断りとして、私の白鳥の基準はパリオペラ座のヌレエフ版なので、なんならマリインスキー劇場で観た時でさえ「何なのあの道化」「は?ハッピーエンド?」となるくらいだいぶ前提が偏っている。(その後いろいろ見るようになって多少は心構えができたが)
それにしてもこのDNBの白鳥は音楽も謎に切ったり貼ったりしている印象だし、振付も音楽に沿っているように見えない。王子のヴァリエーションにしても、何を表現しているのかが伝わってこない。ただパをつなげただけのように見える。そしてダンサーも踊りにくそうに見える。聞き慣れない曲もある。
プティパの原型、ヌレエフの振付は良く出来ているのだなあ。もちろん観ている回数が圧倒的に多いヌレエフ版なので私個人の理解度が他の版とは比較にならないのだと思うけど、ヌレエフ版の王子のソロはパひとつひとつに感情が載っていて、まさに語り掛けてくるようなのだけど。
このDNBのでは王子は何を考えながら、何を表現しようと思いながら踊っているのだろうか。
そしてこの版では、もしかしてベンノが主役だった?という終わり方をする。ベンノの王子への愛、そうかそういう物語だったのか!(?)全体を通して、そこにもベンノいるんだ、という王子との距離の近さ。なので、2幕でオデットが出てきても、なんで白鳥が必要なんだろうかと「これ”白鳥”の湖ですから!」というそもそもの前提が揺らぐ思いが浮かぶ。
とはいえ『白鳥の湖』というグラン・クラシックへの新たな解釈や挑戦というのがされ続けているからこそ、我々は素晴らしい作品の誕生や上演に立ち会えるのだから、試み自体はいろいろやってほしいのだけども。
王子の物語であるヌレエフ版、そして先日配信されてたハンブルクバレエのノイマイヤー振付『幻想・白鳥の湖』、さらにマシュー・ボーンのスワンレイクのように、苦悩する王子の姿に慣れてしまっている我々。小手先の”目新しさ”は通用しない…。
白鳥の後、DNBでは『マタ・ハリ』が公開された。これはなかなかおもしろかった。
オランダ、東インド、パリと舞台を移しながらある女性がマタ・ハリとして自分の生きる術を見つけるが…。国や時代の違い、男性たちや戦争に翻弄される女性。見応えのある作品。
マタ・ハリのドキュメンタリーを以前見たことがある。「美貌の女スパイ」みたいな話は、男の願望と、後ろめたいことは女のせいにしておくというようなのの混ざった作り話の面が大きいと感じる。例えば『マノン』は完全に創作物だけど、あそこにも「美少女マノン」がお金をとるか愛をとるかがあって、マノンを利用する男たちの罪・責任は問わない。(原作読んでないので認識間違ってたら申し訳ない)
破滅は女性本人の選択というより周りの人(男たち)や時代の影響が大きいのに、「美女の悲劇」として酒の肴にするようなところが、こういう話に触れると引っかかる点。これは特定のバレエ作品に対してではなく一般論としてだけど。
『マタ・ハリ』はマタ・ハリとして生きたあるオランダ人女性の物語バレエとしてDNBの作品としてとてもよいと思った。
こちらは元パリオペラ座エトワール、バンジャマン・ペッシュ振付によるもの。
ペッシュといえば日本ではエトワールガラで素晴らしい手腕を発揮してくれて、私がハンブルクのアッツォーニ&リアブコの素晴らしさを知ったのも、当時まだスジェだったユーゴとジェルマンを日本に連れてきてくれたのも、ペッシュのエトワールガラだった。彼自身、エトワールガラが自分がやりたい仕事や引退後を考えるのに影響したとどこかのインタビューで読んだ。
これもベンノがいるバージョン。同系色でまとめられたスッキリめの衣装や装置で、音楽の切り貼りもなく、奇をてらったところなく進む。2幕4幕の白鳥群舞になると、うーむとなるけれどもパリオペ見過ぎてるから仕方がないかも。脳内をチラつくヌレエフ版の記憶。それなしにはもう見られない。。
そしてラスト。これもまた初めて見るパターンだった。最後をどう終わらせるか、新たな振付をする人はみんな色々考えてるんだろうな。誤射かあ。
パリオペと比べると一回りこじんまりしている感はあるけれども、ストレスなく見られる『白鳥の湖』だった。
ロイヤルの『アナスタシア』も見た。(5/29まで)
なかなか集中して見られなかったのだけど、これはオシポワの演技力!3幕鬼気迫る。キャストが多く豪華で、今やプリンシパルのダンサーがソリストとして踊っていたりするのを見るのが好きでつい気になってしまう。3幕はエドが出るのもよい。
NYCBはウィールドンの2作。
NYCB Digital Spring Season: Liturgy & Carousel (A Dance)
”Liturgy”は音楽がFRATRESで男女2名のデュエット。これは好き。というか音楽のせいかもしれないけど(笑)。もう一つの”Carousel”の方は、ウィールドンっぽいやつで気が散ってしまった。
さてこれからのもの。
新国立劇場から新たに発表になった配信予定。
「巣ごもりシアター」5月29日からの配信作品決定! | 新国立劇場
注目はバレエ『ロメオとジュリエット』(5月29日(金)15:00~6月5日(金)14:00)である。なんせ前回の配信『マノン』ではいろいろ考えてしまったからなあ。
同じくマクミラン作品で物語バレエのロメジュリを新国の別キャストがどう演じているのか。そしてそれを観て自分が何を考えるのか、楽しみだ。
イングリッシュナショナルバレエも『白鳥の湖』公開予定。(5/27-29)
Watch Party: Swan Lake - English National Ballet
白鳥の見比べしたくなるな。
シュツットガルトのオペラバレエ『ヴェニスに死す』も見てみたい。5/29まで。
この2か月ほどオンラインで様々な作品を見ているけど、自分が何を好きなのかよくわからなくなってきた。良い事なのか悪い事なのか。