アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

パリオペラ座バレエ団『白鳥の湖』(2019)inシネマ

恵比寿ガーデンシネマ再開!最初にドラン特集やっててぐっときた。閉館したままなくなっちゃうかと心配だったから本当によかったよ。

そして現在パリオペラ座バレエ団の『白鳥の湖』上映中。

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パリ・オペラ座 バレエ シネマ

 

これ、告知では2016年のアマンディーヌ/マチュー/アリュだったので、何度も観てるしL’Opéra chez soiでも観られるので今回は見送るつもりだった。

 

だがしかしまさかの展開が。

初日上映してみたら、なんと2019年のレオノール/ジェルマン/アリュの映像だったと。

そんなことある!???

 

マチューやアマンディーヌを目当てに観に行った人は超気の毒だし、違うデータを送ってくる方も、受け取って正しい内容か確認しない方も、どっちもちゃんと仕事して!!って感じである。

そしてその後の対応が、土日月はジェルマン王子、火水木はマチュー王子、なんなら見比べもできちゃうよ!という事態になった。これは不幸中の幸いというか怪我の功名というか、日本未公開の2019年版を急遽観に行くことにした。

 

ヌレエフ版の1幕のコールドが踊りまくるのが大好きで、パリで劇場に通いまくってた頃の気持ちがわーっと湧いてきていきなりうるうるしてしまった。早い。

 

それにしてもジェルマンは王子役を踊るために生まれてきたかのような身体条件を持ち、オペラ座のエトワールになるほどの努力と才能を持ち合わせた、ほんと逸材だなーとほれぼれする。ひたすら目で追ってしまう。そういう存在がエトワールなんだよな。

アリュとのやりとりも非常に意味深に見え、ヌレエフ版の魅力満載である。そしてジェルマンの役作りを見ていて、彼にとってこの役はとても入り込みやすい、共感できる役なのではないかと感じる。若く、多感かつ不安定で、周囲からの期待や圧力があり、自分を探し求める。1幕のソロ、とても良かった。あのソロはダンサーの個性がとても表れると思う。

 

パ・ド・トロワはパクさん、ハナさん、ポール・マルク。3人のうち2人はエトワールになった。マチューとアマンディーヌの2016年版のパ・ド・トロワはレオノール、ハナさん、ジェルマン。ここでも3人のうち2人はエトワールになった。ちょうど今バスチーユでも『白鳥の湖』の公演中。パ・ド・トロワのキャスト気になるね。(チェック済み)

 

2幕、レオノールのオデットと王子の出会いの場面では正直違和感があった。「白鳥らしさとは」というのを考えさせられる。しかし我々は「リアルな鳥っぽさ」を求めてるわけではないよね?(あ、求めてる人もいるか?)いわゆる本物の白鳥らしさを追及するよりも、外見は白鳥だけど中身は人間の女性である、というところが強めに表れているのではないか。いろいろ考えてそういう気がしてきた。

その後場面が進むにつれ段々見慣れていくというか、これが今の彼らの世代のオデットと王子の描き方なんだなと思うに至った。彼らって自分たちは何をすべきかというのにとても自覚的な世代だと思うのだよね、様々な言動から想像するに。そういった社会性を反映しているのだと思った。

 

カメラワークが舞台を上から撮る映像を多用していて、劇場に行っても見られない視点だから、映像化ではこういうのもいいんだろうな。白鳥たちのフォーメーションの美しさが伝わる。

 

3幕は前半は若干緩んだな。幕間休憩ほしいよね。ナポリがマリーヌ・ガニオとフランチェスコ・ミュラ、スペインがパクさん、ハナさん、パブロ、ジェレミー。(ここも将来のエトワール注目枠)

アリュのロットバルトとレオノールのオディールがバランス的にも演技的にもいいなあ。そして「ついにきたぁーっ!」となるロットバルト、アリュのソロ。この日一番の凄い拍手。

 

アリュ、オペラ座辞めちゃうんだもんなあ。。。今回あらためてアリュを見て、ヌレエフ版全幕のようなクラシック作品とオペラ座という王道のバレエ集団の中だからこそアリュの個性や才能がより引き立つのではないか、だってバリバリ古典の作品の中でガラリと空気を変えるあの力よ!

同じ役、同じ振付なのになぜこんなに違って見えるのかと思わせるダンサーというのはそうそういない。自由を求めてオペラ座を辞めるアリュだけど、彼独特の魅力が映えるのは、皮肉にも伝統のオペラ座オペラ座のダンサーたちの中なのかも…。

 

4幕はコールドの美しさと、あとはやはり、ラストよね。王子とロットバルトのやり取り。アリュのロットバルトは魔力強めで、3幕も4幕もその場を支配し操ってる感が強い。あの魔力の前には、若き王子は自分の未熟さ、浅はかさと後悔に打ちのめされるしかないのだ…。ロットバルトも本当に誰がやるかで全然違うよね。カールロットバルトも冷徹で美しくてたまらなかったけど。

 

たぶん白鳥は一番回数見ているバレエ作品なんだけど、何度見ても新たな発見や感動があって、本当に見どころ満載の作品だと思う。踊る側は主役からコールドまでめちゃくちゃ大変そうだけど。

 

あと、こういった古典のコールドに「揃ってる」をどれくらい求めるかというのも、意見が分かれるところだと思うのだけど、映像だとよくわかるけど、遠目にはとても似て見えるダンサーひとりひとりが実は身長も体形も様々で、それって本来とても当たり前なんだけど、様々な背景を持つ個々の集まりであることが当たり前であり大事であると、以前よりも感じるようになった。なので、ミリ単位で揃うかどうかということに、私はそこまで美を感じないのよね。まあ人それぞれ。揃ってないなあ、バラバラだなあ、と感じる人もいるかもだけど。

 

また思い出したら追記するかも。

誰かの手違いで実現してしまったジェルマン王子。貴重なものを観た。