アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

新国立劇場『マノン』をオンラインで見て考えたこと

5/8 14時まで公開中。

[巣ごもりシアター]マノン | 新国立劇場 バレエ

 

ロイヤルバレエのワディム・ムンタギロフが客演した『マノン』。ワディム目当てでチケットを買って生で観た舞台。収録はその翌日のものだけど、オンラインで新国立劇場『マノン』を見ながら考えたこと。

 

『マノン』は18世紀の小説が原作で、美少女マノンと神学生デ・グリューの恋愛、女性が自分で自分の人生を決められなかった時代背景、お金持ちの愛人として豪奢に暮らすか、お金はないけど恋に落ちた相手を選ぶか、それが許されるのか、選んだ結果がもたらした悲劇、といった濃厚なドラマだ。それをセリフなしに、振付と演技で表現するバレエ。

 

正直に申し上げると私は新国の”演技”が苦手だ。なぜ苦手なんだろうかとどうしても考えてしまう。それを考えずには見られない。劇場で観る際は、オペラグラスを覗かなければダンサーの顔のアップはないけど、映像だと比較的鮮明に見えるよね。そのため余計気になるのかもしれない。

 

ついでに言うと私は日本のテレビドラマや映画や舞台も苦手なのが多い。歌舞伎の場合は様式美と割り切っているのでそこまで気にしないけど(ストーリーとはまた別の問題)、作品の中での喋り方(セリフ)がわざとらしく聞こえ、説明的すぎるように思え、一方、目や身体での表現はそこまで重視されてないように見える。

ある意味「歌舞伎的な大げささ」は日本の演技の伝統なのかもしれない。あくまで私の個人的経験に基づく感想だけど。

 

日本語での日常会話ってあまり表情筋を使わない言語だと思う。というのも、たまにフランス語で過ごした日には顔が疲れるから(笑)

さらにフランス語の喋りには腕や肩もよく使われる。会話は言葉だけでなく身体表現でもあるように思う。私は経験上フランス語を比較対象にしたけど、他の言語にも似た傾向はあるのではないか。

普段の日本語の会話ではあまり顔の筋肉を使わなくても発声することができ、大きな身振り手振りも少なめな割りに、ドラマや舞台の演技では大げさになるというギャップがある気がする。同じことが、バレエにも言えるのかも?

 

私が新国の演技に違和感を感じるのは、「日本語話者のわりに」という先入観があるからなのだろうか。そうなのかもしれない。自分がどんな色眼鏡をかけているか、自覚するのは難しい。なのでその可能性も否定できない。

 

この公演を見ていて感じるのは、マンガ的な表情の作り方だなあということ。日本はマンガやアニメの国だからね、つい連想してしまうのかもしれない。これも色眼鏡かも。

それと同時に思うのは、全体的に幼く見えるということ。体格からくるものもあると思うのだけど、身振り手振り、表情の作り方も、影響していると感じる。マンガやアニメも日本の演技・表現の一連の中にあるわけだから、相互に影響がないとは言えないのではないか。1人1人では小さな違いも、バレエ団という団体になったときには大きく可視化されるのかも。それがバレエ団の個性なのだとは思うけど。

 

一般に日本のメディアを通じて目にする女性像というのは、圧倒的に若く幼く、可愛く健気な雰囲気だ。ニュースのアナウンサーでさえ、そう感じる。それは社会が求めている、社会が好んでいるモデルなんだと思う。(=決定権を持つ人たちの好み)以前よりも圧倒的に高い声でニュースを読むアナウンサーが増えたと思うし、その傾向は「アニメの声優的な発声」に近いと感じる。社会全体がアニメ寄り、と言うと極端になってしまうけど、例えばヨーロッパと比べれば明らかに違いがある。

 

などと色々書いたけど、言語の特性、社会の嗜好や傾向など、こういったことを含んでいる環境での『マノン』の上演なのだ。そこで描かれる女性マノンが、ロイヤルやパリオペでのマノン像と同じになるはずがない。その違いがあまりに大きく、私はそれが気になってしまうのかもしれない。

そしてダンサーの”演技”のベースも大きく違うと思われるので、バレエ教室文化の日本ではなかなか難しく足りない面もあるのかもしれない。(バレエ学校とは中身が違う)

 

劇場で観た時の感想↓

新国立劇場バレエ団『マノン』 - アートなしには生きられない

 

 

いろいろ理屈を考えてはみても、「好みの問題ですね!」と言ってしまえばそれまでなのだが。この新国『マノン』、公演時は大変好評だったし、私の好みが主流ではないのだという自覚はある。別キャストで観る機会もなかったので、1公演で決めてしまうわけにもいかない。

 

ただ私がバレエやダンスで心打たれるのって精神の成熟であったり、突き詰めていく姿であったりすることが多いので、まあ、やっぱり、好みの問題かな。。。結論それか。

 

それにしても、つくづくバレエというのは総合芸術で、その国の社会や文化を見事に反映しているのだなあと思う。