アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

NDT日本公演2019

NDT | Nederlands Dans Theater Tour in Japan
2019年7月5日ー6日 神奈川県民ホール

taci.dance

 

去年10月のシンガポール公演をエジプト旅行で見逃してしまったNDT。

ライトフット、レオン、ゲッケ、パイトの4人の振付家による4作品。コンテンポラリーダンスの最先端!


1作目ライトフットのSingulière Odysséeは駅の待合室を行き交う様々な人々が描かれる。同じ場を共有する人々の背景の多様さ、社会問題を直視する姿勢。そしてダンサーの身体の強さ。舞台上がまるで絵画のように美しく惚れ惚れ。

風に舞う紙屑が、あーーヨーロッパって感じーーーなどと思っていたらその後大変な量の紙屑が降ってきて、それがまた美しく、圧倒され、高揚して終わった。

静止するダンサーの横で踊るダンサーという構図がたまたまその場に居合わせた人々のそれぞれの人生にフォーカスするように見えて、深い。

 

2作目はゲッケのWoke up Blind。これは好みではなかったのだけど、ダンサーの驚異的な身体能力を極限に引き出す振付、という感じ。身体ってあんなにも動くのか…。

 

3作目はクリスタル・パイトのThe Statementでこれがまた、射貫かれた。「会話」がそのままダンスという形になり目に見える。私は普段は言葉を使うダンス作品は好きじゃないんだけど、これは別次元。あの鋭さ。厳しさ。支配や責任。現実社会をあんな風にダンスにできる。瞬きするのも惜しい気持ち。ピンと張った緊張感で心臓バクバクだった。そして振付のみならず演出、ライティングが素晴らしい!

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4作目はレオン&ライトフットによるShoot the Moon。これは大掛かりなセットを使った大きな作品。ダンサーは5人だけど、スケールがでかい。映像の使い方が、シンガポールで観た「1984」を思い出した。回転扉のように壁が回り、3つの部屋で人間関係が展開する。交差したり、離れたり。これも「Singulière Odyssée」同様、絵的に美しい。

 

とにかく振付家たちの知性と現代社会を見つめる目、ダンサーたちの身体能力、これぞヨーロッパ!な雰囲気といい、ほんといいもの観た。

 

そして、これは諸事情あるのだろうから言っても仕方がないのだけど、会場だけが残念。舞台上とあまりにも別世界の県民ホール。観客が舞台と一体化するような密度の濃い空間で観たいと思ってしまった。大きいホールだったから観たい人が観られたのだと思うけど、大きすぎてステージと分断されていて。オランダまでは簡単には観に行けないし来てくれてありがたいけど、公演内容に適したいい劇場があるといいよね。。

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パリオペラ座シンガポール公演でのThe Seasons’ Canon、ロイヤルバレエinシネマでのFlight Pattern、そしてNDT日本公演でのThe Satetementと、クリスタル・パイトの作品を連続して観る機会に恵まれ、すっかりパイトの虜になった。

やっぱり生で観たパリオペとNDTが良かったのだけど、ロイヤルLVでのパイトのインタビューが非常に印象的であり感動的で、パイト作品の持つ現代社会とのつながり方、パイトの人間性にとても共感する。芸術がいかに密接に社会と繋がっているか、人々の心に訴える力があるかを見せてくれるパイト。

さまざまな感想を目にする中で、難民をテーマにしたことに対して批判的な意見を見かけたのだけど(悲劇を上から目線で見世物にしてる的な)、カナダ人でヨーロッパで仕事をするパイトは日本で「他人事」として難民問題を遠くから眺めている人よりよっぽど現実を肌で感じているはずで、そういうシニカルな態度で批評した気になるそのメンタリティってほんと日本的だ。

またNDTを目の当たりにしたことで、日本の舞台芸術界の関係者も観客も、「凄ッ!」となったと同時に日本の現状を顧みて「……」となった人も多かったのではないか。作り手側の危機感の方が大きいんだろうけど、観客側もいろいろ考えちゃうよね。

 

フォーサイス、ロビンス、パイト、ウィールドン、シェルカウイ、ライトフット、レオン、ゲッケ。2週間で観た振付家。濃かったな!!