見事だ。
18世紀、ブルターニュの孤島が舞台。画家のマリアンヌが貴族の娘エロイーズの肖像画を描くために雇われ、館を訪れる。館で働くソフィー、エロイーズの母と4人の女性が主な登場人物。
マリアンヌとエロイーズが、描く側、描かれる側として対峙する目線。ほとんど音楽もなく、俳優たちのアップが静かに多様される。映画を観ているこちらも緊張する。2人の間にどんな感情が湧き、動いているのか。その一瞬一瞬が見逃せない感じ。
エロイーズの母が不在の5日間、マリアンヌ、エロイーズ、ソフィーの3人は身分や役割の垣根を超え、同じ女性として自然体に過ごす。貴族としての生活、生き方を象徴するような母親の不在によって、エロイーズは解放され、自分らしくいられる。たったの5日間。切ない。
当時の女性たちが置かれていた状況。貴族であってもそうでなくても、行動や選択には多くの制限があった。その中でも、身分や立場を超えて女性たちは連帯する。あの5日間の過ごし方は象徴的だった。
また画家という職業を持つ女性も、表立って活躍することはできなかった。父親の名前でサロンに出品するマリアンヌ。そんな環境であってもマリアンヌは強いし、画家という職業に誇りを持っている。
エロイーズは、貴族の娘であるがゆえの選択肢のない、決められた人生に怒っている。その怒りは現代女性である私たちもわかるよね。決められた相手と結婚し子供を産むことを求められ、それ以外の人生はない。ここまで露骨ではないにせよ、現代女性にもある呪縛。
時代や立場を超え、マリアンヌとエロイーズの間に生まれる強い感情。それを演じる俳優たち、撮る監督のすさまじさ。圧巻。
音楽がほとんどない分、ブルターニュの激しい波音が印象深いのと、絵画的な美しさの衣装と風景。
また、ヴィヴァルディの四季、ケルトっぽい響きの歌、オルフェの神話。非常に効果的に使われている。
なんとも深く、考えさせられる映画だった。唯一無二。素晴らしかった。