アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

ROH in シネマ『マノン』

2月にパリオペ来日公演でどっぷりとマノンの世界に浸ったので、その記憶を上書きしたくない気持ちがあり、最後の最後まで観に行くか迷った今回のロイヤルバレエ団『マノン』。主役ペアがオシポワとクラークというのも迷いが深まる理由だったのだけど、しかし結果的には観てよかった。

全然違うから上書きされないし、同じマクミランの『マノン』なのにずいぶん違うものだとあらためて面白かったし、そしてなによりオシポワの自由さに圧倒された。オシポワはやっぱ強い!

 

ロイヤルってほんと許容範囲広いよね。毎度感じる。身体条件も幅広いし、演技の比重が高い分、ダンサー個人の性格や個性がより舞台上にも表れやすい気がする。素の性格そのものが出るというよりは、どこまで濃くキャラクターを演じるかの違いかも。

 

いやあ、パリオペって、ほんと美しいのね。感情の昂った場面であっても美しさを損なわないパリオペと、感情や演技を優先するロイヤル。雑(にも見える)になることが感情表現の一種でもあるのかもしれないが、ここは違うなあと思った。(どっちがいいとか正しいではなく)

 

ロイヤルはサブキャラも設定が濃い。レスコーがやけに暴力的に見えたり、レスコーの愛人の野心が見え見えだったり、ムッシュGMのエロおやじっぷりもさすがのギャリーさんだったし、全体的に人間味あふれる。一方パリオペは抑制が効いてる。やりすぎない美。これはもうカンパニーの持ち味や矜持の違い。

 

オシポワのあの自由さは凄い。型にはまらない。そしてあの自由を尊重する度量も凄い(笑)1幕寝室で兄とGMとのパドトロワ、この段階から攻めかよ!かと思ったらGMに対してめっちゃ嫌そうだし!と面白い。オシポワのマノンはその辺にいそうであり、生き生きと生命感に溢れ、見ていて飽きない。

クラークのデ・グリューもまた、その辺にいそうな青年。高校のクラスで一番のイケメン、みたいな、そういう親近感ある。ちょっとボッレを思い出した。容姿のタイプ似てない?イケメンというより”ハンサム”という形容が似合うというか(笑)

 

二幕の娼館であんなに女王っぷりを満喫してるマノン初めて見た!(笑)デ・グリューを目にするのは嫌だけど、それ以外では自分が得た贅沢と羨望のまなざしをめっちゃ楽しんでいる。男たちがみな自分の虜になるのをみて大満足だし、男たちも、マノンの手を握っちゃったよ!!みたいな演技しててよかった。そして他の娼婦たちの野心もバリバリでよい。

 

インタビューでラウラが、娼婦、高級娼婦、愛人を踊り、そしてマノンに抜擢されたと話してたが、そういう積み重ねがロイヤルの強みだよね。どの役を演じるにせよキャラの解像度が高い。あとロイヤルは若い人がメイクで老人を演じるのではなく、実年齢の近い人が舞台に乗ってるところも全体の雰囲気の厚みになってると思う。(引っ越し公演ではその辺は仕方がないが)

 

酷い話なので三幕は苦手なのだが今回はそこまでじゃなかった。そして瀕死であっても内から溢れる熱量でつき動かされるオシポワマノンの演技が素晴らしかった。

あのオシポワの自由さとエネルギーを受け止めるには、体格のいいリースくんなんだろうなあ。全然期待してなかったんだけど(すまぬ)、予想より良くて観に行ってよかったよ!こういうことがあるから「迷ったら見ておけ」なんだよねえ。

 

とても良かったのだけど、同時にミリアムとマチューの残像が脳内再生され、あの舞台に立ち会えて本当に良かった…とも思いながら観たのであった。生の舞台はやっぱり別格だもんね。

 

それにしても踊る人によって毎回こんなにも違って見える、そして初演から50周年とのことだけど全然古くない、変化と自由を許容する余白があるからこそ作品が長く愛されるのだろうなと、改めて思ったのであった。