アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

Tout s'est bien passé(すべてうまくいきますように)

ewf-movie.jp

 

フランソワ・オゾン監督の ≪Tout s'est bien passé≫ を観に。

邦題は「うまくいきますように」と未来を願っているが、原題は「すべてうまくいった」である。

 

普段なら、オゾンの作品が公開されたらすぐにでも観に行きたいはずなんだけど、本作に足を運ぶのには時間がかかった。病に倒れ身体の自由を失った父親に尊厳死の手配を頼まれる娘。父を亡くして日が浅い私が観るには勇気が必要な作品だった。

 

年齢に関係なく、死は必ず訪れる。しかし死に至る状況というのは人それぞれに異なるし、いざ自分が直面するまで、向き合うことは難しい。

 

自分がエマニュエルの立場だったら?自分の父親がアンドレのような望みを打ち明けたら?自分ならどう感じ、どう対応するだろう?

私ならきっと、エマニュエルよりもっと淡々と、事務的なほどに、ひたすら淡々と準備を進めたのではないかと思う。

アンドレとエマニュエルの父娘の関係が自分に近すぎなくてよかった。あまりに似てたら観るの辛すぎる。

 

フランスでは認められていない尊厳死。もちろん日本でも認められていない。自分が自分の尊厳死を望む可能性はある。でもそれが近しい人の望みだったら。どんな状況でも生きてそばにいてほしいと願う対象だったら。

 

スイスでの合法的な尊厳死にアクセスできる人だけが願いをかなえることができ、お金がなければできない。それもなんだか辛い現実だと思う。人が人として、最後まで自分らしく尊厳を持って生きる、それが理想だけど、その手段の有無がお金で決まる。

 

近しい人の死に向き合うことと、それと同時に直面し決断しやらねばならない諸々手続きに追われること。さらに尊厳死が国内では合法でないので犯罪者扱いされるリスクも伴う。そういうリスクがあることで、本当なら一緒に過ごすつもりだった最後の時間も叶わない。

 

それでも、お互い納得の上で、実際には本心はわからないけれども、それでも「さよなら」って伝えられるのは、羨ましい気もした。ちょっとだけ。わからないけど。

 

はあ。やっぱりまだ辛いな。

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