アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

Médecin de nuit(パリ、夜の医者)

今年もマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル開催中。

MyFrenchFilmFestival 12th Edition

 

長編含む全作品見放題パックが7.99€という、劇場映画1本分よりお手軽な価格設定。舞台の配信を購入するようになってみると余計に、え、こんなに安くていいんですか!?という気持ちになる。

フェスティバルは2月14日までだけど、それまでにパックを購入していればそこから30日間視聴可能。日本語含む字幕付き。

 

私はヴァンサン・マケーニュ主演のこの作品が見たくてね。

www.myfrenchfilmfestival.com

 

自宅で映画ってなかなか集中して見られないのだけど、これは全然そんなことなかった。あっという間。

 

タイトルになってる”Médecin de nuit”は夜の訪問診療をしている医師のことで、主人公ミカエルはその仕事をしている。連夜の夜勤(と諸々の用事)で、パートナーのサシャとはケンカ。仕事と家族を選ばせるやつ?と思ったんだけど、そんな単純な話ではなかった。

 

社会問題でもある薬物中毒。中毒患者を責めるだけでは問題は解決しない。患者の多くは弱い立場にあって、自力で抜け出す力が残っていないことも多い。ミカエルはそういう人のためにも処方箋を書いている。

しかし医者は聖人ではない。医者も弱い面を持った人間。序盤にそれが示唆されてる。ミカエルは「大天使ミカエル」を想起させるよね。

 

Médecin de nuitをやっているくらいだから、弱っている人に寄り添える人なんだよねミカエル。と同時に、誰にもいい人でいたいと、そういう性なのかもしれない。それが良くも悪くも働いてしまう、というような。

 

いとこのために違法な処方箋を書いてきたミカエルが、もうこれ以上は無理だと断ったのをきっかけに、ミカエルはより深刻な状況に追い込まれる。

 

”家族”って本当に。ミカエルにとってはサシャと娘たちが家族だけど、血縁のいとこのことも見捨てられない。そこに付け込まれるんだよね。ほんとやりきれない。

 

診察に訪れた家で、ミカエルと患者たちとのやり取りの場面がなんともよい。夜中に医師を呼ぶ人というのは必ずしも病気やケガの症状だけが悩みなのではない。複合的な悩みを抱えていることも多いのだよね。

そしてそれはミカエルも同じで、ミカエルのただならぬ様子に、患者でありピアニストの女性が「よかったらピアノを弾きましょうか?」と提案する。診察されていた時に座っていた場所にミカエルを座らせて、ショパンを弾く。バレエ、ロビンスの”In The Night”が浮かぶ。音楽の持つ力。この場面よかった。

 

魅力的な女性が身近に何人もいて、ケンカしながらもサシャを愛しているのか、それは本心なのか、ミカエル本人もわかってるのかわかってないのか、どうなのよとなりながら終盤を迎えたのだけども、最終盤のミカエルとサシャに、私は2人の人間性に泣いた。サシャの、ミカエルに対して残っていた思いやりみたいなものが、ミカエルを救うのだと思いたい。

 

ヴァンサン・マケーニュはこれまで楽しい役が多かったイメージだけど、本作は全然違う役で、とてもよかった。