アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

The Public(パブリック 図書館の奇跡)

エミリオ・エステベス監督の≪The Public≫。

longride.jp

 

寒波に襲われてるシンシナティ、ホームレスのためのシェルターはどこも満員で、路上では凍死者が出ている。日中は誰もに開かれている図書館で過ごしているホームレスたちは一夜の「屋根」を求めて図書館に立てこもる。

 

この作品、ちょっとベタかなあと感じる展開もあるのだけど、それでも良かったところが多々あった。アメリカの抱える問題のいくつかと同時に、アメリカが持つ強さの素。そしてまさにいま進行中のBLMともリンクしている。実在社会を映していると言える。

 

私が最もグッと来たのは、多くのホームレスと一緒に図書館に立てこもることになった図書館員グッドソンが、実態よりもセンセーショナルな事件に仕立てようと実況中継するTVリポーターとの電話でスタインベックの『怒りの葡萄』を引用するところ。

あの暗唱は図書館が持つの知の力の象徴で、一方リポーターはその出典と意味に気づかない無知と軽薄さを露呈してしまう。ベタなんだけど、それでも、図書館員グッドソンが人生を立て直し成し遂げてきたことを思って感動したのだった。すごく、学びたくなった。

 

アルコールや薬物中毒、退役軍人たちの不遇、格差社会、すぐに実力行使(暴力)で締めくくろうとする権力側など、パフォーマンスに走る権力者など問題が多くある。

一方で、声を上げようと立ち上がる人たち、困っている人に手を差し伸べようと行動する多くの人たち、図書館を民主主義の砦として誇り高く守ろうとする思想など、志の高さがある。

厳しい現状を生きている人たちの中にもある”知”や笑いにホッとしたり、ハラハラしたり、笑わされたりしながら最後までおもしろく見た。

 

 

「パブリック」という言葉が日本語として定着しているのかどうか、日本人の感覚としての「パブリック」が日本に存在しているのかどうか、私はちょっと懐疑的。

 

以前見た、ニューヨーク公共図書館を舞台にしたドキュメンタリー映画を思い出さずにはいられない。”Public Library”としての役目の広さと誇りの高さに感動した。ああいう存在は日本にはない。

 

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス - アートなしには生きられない

 

そもそも知・情報へのアクセスに格差がある状況なのに、自己責任と他人を切って捨ててしまえる想像力のなさが市民から政治家まで蔓延してはいないか。

コロナ禍においても、「感染するのは本人のせい」と考える割合が他国と比べて突出して高いのが日本だという。

社会を支配する空気がそれでいいんだろうか。

 

 

タイトルについてるけど「奇跡」は別に起きてないと思う。邦題が奇跡好きなんだなきっと。

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