アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

The Man Who Sold His Skin(皮膚を売った男)

映画館で見た予告で気になっていた本作、やっと観た。

 

映画『皮膚を売った男』オフィシャルサイト 2021年11/12公開

 

f:id:cocoirodouce:20211207214920j:image

 

ストーリーが独創的で、かつ時世を反映していて、この世界の抱える問題や欺瞞、そして批判的視点を持っている。

 

すごいなあ、こうやって今の世界を映画の中で表現する。これぞ映画の醍醐味と言えるのではないか。

 

不当逮捕から逃れてレバノンで暮らすシリア難民のサム。故郷の恋人はその後外交官と結婚してベルギーにいる。しかし難民のサムはベルギーに行くことはできない。

 

偶然知り合ったアーティストの提案に応じ、自分の背中を作品として提供することにするサム。サムの背中に彫られたのはシェンゲンビザのタトゥー。なんという皮肉。その”ビザ”のおかげでついにベルギーへとたどり着く。

 

シェンゲン協定内では国境管理もなく行き来が自由にできる。元シリア難民のサムも、有名アーティストの”作品”となったことでヨーロッパへと入る自由を得た。しかしそれは”自由”なのか?

 

”作品”となり、立派な美術館に”展示”されるサム。それを”鑑賞”するヨーロッパ人たち。いやはや、なんという。

 

一方、シリア難民の人権を守る人たちも登場する。背中を提供したサムのことをシリア人の恥と言う者もいる。

 

この葛藤というか、引き裂かれる気持ちというのは、自分が難民を”鑑賞”する側に近いと感じるからなのか。きれいごとでは済まない、かといってサムを救うには何をすればいいのか。彼は何を望んでいるのか、それも掴めないもどかしさ。

 

いやあ、監督の思うつぼなのでは。(笑)

 

監督はカウテール・ベン・ハニアチュニジアとパリで映画を学んだ同世代の女性だ。ステキ。

 

話はこの後さらに予想外の展開をするのだが、派手にやり過ぎず、非現実的になり過ぎず、それゆえ観てる人たちの現実と地続きであるっていう感じがして効果的な気がする。他人事にさせないというか。

 

おもしろかったなー。映像も、絵的に新鮮な印象があって、好きだ。ラストもよい。