アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

Une belle course(パリタクシー)

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泣いたー。私の心を揺さぶる要素が満載であった。

原題 ≪Une belle course≫ が沁みる。

 

でもこれ、邦題「パリタクシー」もそんなに悪くはないと思った。まーたパリって付けとけばいいと思って!的ないつものやつではあるんだが、その一種の”軽薄さ”がいい意味で裏切られる。

 

美しい92歳のパリジェンヌ、マドレーヌが生きた時代、人生。決して軽くは語れない。予想以上に重たい過去があり、自分と同じ現代を生きる人の過去の個人的経験、社会、常識などが、自分の感覚からすると、そんなにも違ったのかと驚いてしまう。日本はまだ揺り戻しの時代って感じだけど、フランスにおける女性の地位だって1950年代にはあんなだったのだ。憤ってしまうけど。その後の変化は素晴らしいな。

 

お金に困っていて免停目前でいろいろ切羽詰まっているタクシー運転手シャルルは、最初はよくいる感じ悪い運転手なんだけど、マドレーヌの茶目っ気と、マドレーヌが語る彼女の人生に引き込まれ、徐々に心を通わせていく。

 

この、たまたまその場を共有しているだけの他人が互いに心の距離を縮めていき、特別な繋がりを築いていく、というのに私はめっぽう弱い。人間同士としてのつながり。家族や血縁に頼らない、1人の人間としてゼロから(なんならマイナスから)つながっていく様。これこそが。

 

そしてまた亡くした父のことを思い出したり重ねたりしてしまうのだが、マドレーヌのように、それがやむを得ない選択であったとしても、最終的に自分自身が決断し、納得し、実行することができるというのが、羨ましいというか憧れるというか。自分に92歳があるとは思ってないが、最後までおしゃれしたり他人との会話を楽しんだり、自分の最後を決断できるなんて、いいなあ。。おしゃれや会話は自分の努力でなんとかなるとして、どんな死かは選べないからね。。。

 

さらにパリ。パリをタクシーでぐるぐる走っててその景色を見ると、あ、あの辺だ、とか結構わかるもので、しばらくパリとはご無沙汰しているけども、 脳に沁みついてる記憶はあなどれない。(笑)

 

マドレーヌ役のリーヌ・ルノー、1928年生まれ!まじで95歳ですか!??素晴らしい。あの輝き。人生を楽しんでいる感じ。

 

あと、主人公が高齢女性の映画が作られることも重要だよなと感じる。気のせいか観客の年齢層も高めだった気がするし。邦画で主人公が高齢の女性のって「PLAN75」くらいしか私は思いつかなくて悲しい気持ちになった。

 

あーしかし、映画とはいえ、あの人間性だよなーー。マドレーヌも、シャルルも。泣いた泣いた。

 

やはりまだ涙腺おかしいんだろうか。