アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

La Syndicaliste(私はモーリーン・カーニー)

イザベル・ユペール主演≪La Syndicaliste≫、予想とは違った意味で重い内容だった。

 

フランスの原子力企業アレヴァの労組書記長を長く勤め、当時アレヴァのトップだった”アトミック・アンヌ”とも親しかったモーリーン。フランスのお家芸的な原子力産業の大企業、そのCEOが女性なんだなフランスは、と当時は思ったものだった。

 

冒頭で、すでにアンヌの地位は危うい。そしてその後継者と予想されるウルセルとは対立関係にある。アンヌに比べたら「彼は経験不足」と言うモーリーンに「男に能力は要求されない」(うろ覚え)と返すアンヌ。

これ、フランスでの話だけど、まさしく男性の履いてる高い下駄よね。女性の登用にはやたらと性別より能力だのなんだのと言うわりに凡庸な(無能な)男性はいくらでも存在しているという。。。

 

映画全編を通して、女性であるがゆえの”不利益”について取り上げていると思う。被害に遭うことも、被害の中身も、捜査における扱い、裁判での扱い…。モーリーンが男性であったら絶対にこういう展開にはならなかったはず。(本作は実話ベース)

 

≪La Syndicaliste≫という原題から(組合活動家の意味)、企業内で権力と闘う女性の話なのかなと思っていた。でも、モーリーンの権力との戦いは、始めることすらできない。相手はEDF、秘密裏に中国企業との提携を画策しているとの情報を得たモーリーンだけど、それを真面目に取り上げてくれる人、話を聞いてくれる人はなかなか現れず、脅迫電話などの嫌がらせが頻発していく。オランド大統領(当時)との面会が叶おうとしている時、事件が起きる。

実話だと思って見ると耐え難い。そして捜査員の姿勢にも腹が立つ。

 

アレヴァやEDF、政治家や経営者、巨大権力による裏工作などに切り込んでいく作品かと思ってたら、モーリーン自身に降りかかった、個人が背負うにはあまりに重い現実を描いた作品だった。2010年代のフランスにおいても、こんなことがまかり通ろうとしていたとは。

 

酷い話であると同時に、こうやって映画になり、当時の大統領や大臣、大企業トップらが実名で登場し、社会を批判的に描ける点では羨ましくもある。邦画にはないジャンルなのでは。

 

そして犯人は今もわからず、野放しなのだ。闇は深い。

 

日本の公式ページがちゃんと表示されなかったので仏語のwikiでモーリーンのとこ読んだらアイルランド出身家族なのね。それで姓が「カーニー」(映画では仏語読みされてるが)で英語教師なんだね。

 

それにしてもユペール様はほんとすごいな。

なんかこう、こういう女性がいるということ自体に勇気を貰えるレベル。