アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

Vous n'aurez pas ma haine(ぼくは君たちを憎まないことにした)

パリであのテロがあったときの衝撃が自分の中で薄れていることに気づいた。

しかしあの最中にいた人たちにとっては、そう簡単には薄れたりしないだろう…。

nikiumanai.com

 

妻をバタクランで亡くしたアントワーヌ・レリスが書いた本が元になっている。妻が死んだのだとわかった後、息子と二人残されて、その心境をFacebookに書いた内容が世界中で話題になった。

テロ直後の衝撃の中で、街中がピリピリし過剰なまでに警戒感を持ち、イスラム教徒を敵視する空気が満ちている中で、「君たちを憎まない」と、遺族が世界に向けて表明する。そのインパクト。

 

しかしアントワーヌが犯人らを憎まないと決めても、怒りや悲しみが薄まるわけじゃないのよね。自分自身への宣言であり、母親を失った幼い息子のためにそうでなければならないと、そうありたいと願うこと、それと同時に、そうではいられない現実との狭間で傷つきまくるアントワーヌ。辛い。小さい子の親であっても、どうにも感情が抑えられない瞬間もある。状況がわからないくらい小さい子だからこそ、キツイこともある。

 

それにしてもあの子役との演技はどうやって撮影したのだろうかと、感心すると同時に心配にもなった。怒鳴ったりするのは大丈夫なんだろうか、とか。きっと万全にケアされているのだと思うけども。

 

そしてあの「人生を楽しむ」ことへのフランス人らの強さというのも、ほんとにああだよなあと思い出す。彼らの生きる力はすごい。一緒に暮らすと圧倒される。私は圧倒された。「何のために生きているのか、楽しむためだろう?」という当然の前提というかね。

バタクランを生き延びた友人の、友を亡くした痛みと生き延びてしまった自分、でもそれでも今まで通り人生を謳歌するのだ!という強い決意ね。

 

よく憎しみの連鎖と言われるけど、その鎖を断ち切ることは簡単じゃない。めちゃくちゃ苦しい。現在進行形で起きている戦争のことを考えると、不可能かもしれない…と思ってしまう。人としてどう生きるか、という選択。重い。