アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

パリ・オペラ座バレエ団来日公演2024『マノン』2/17(マチネ)

待ってたよーー!!

 

2024年2月17日13時30分

マノン  ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー  マチュー・ガニオ
レスコー、マノンの兄  アンドレア・サリ
レスコーの愛人  エロイーズ・ブルドン
ムッシューG.M.  フロリモン・ロリュー
マダム  ロール=アデライド・ブコー

パリ・オペラ座バレエ団2024年日本公演 「マノン」 2月17日(土)マチネのキャスト

 

ミリアムを全幕で観られる至福。しかも相手はマチュー。そして作品は『マノン』。

なんと胸に迫る物語だったことか。沼地のPDDの美しく残酷なラスト。泣く。

 

今日はもうマチューとミリアムばかり追ってしまったので、周りのことはあまり見えてない。マチューがあまりの貴公子っぷりで、神学生のはずだけど、あのマチューと出会ってしまった16歳のマノンが好きにならないわけがないのよ。みんな目がハートになっちゃうよあれは。(マチューのアラベスクに目がハートになった私)

若い二人が恋に落ちて幸せいっぱいで、一番楽しい時だよね!ってなるのにね。。

 

今回のムッシュGMはすらりと長身のノーブル系(フロリモン)で、お金だけが魅力じゃなさそうに見えるところがまたおもしろい。そんなに嫌な奴じゃなさそう。で、マノンは自分の魅力がなぜかめちゃくちゃ価値があるらしいと気づいていく。

いや実際あの美しい脚にはメロメロになるよな…。

 

ミリアムとマチューのペアは、ふたりともベテランだし身体能力やスピード感やリフトの高さなどで魅せるタイプではない。それがマクミラン作品をあえてパリオペがやる魅力になっている。絶対にロイヤルでは見られない、パリだからこその『マノン』。感情を繊細な腕や首や背中や脚で表す。わかりやすい表情などは不要なのだ。その”美学”に心動かされるのだよな…はあ…溜息ばっかりついちゃう。

 

二幕のあの、マノンが男たちの間を浮遊するところ、観客席がめっちゃ集中して観ていて、拍手するのも忘れるほど。全体的に今日はみんな呼吸を忘れて見入るような感じがあった気がする。のめりこみすぎて拍手のタイミングを逸する、みたいな。(私のこと)

 

今日はミリアムとマチューの様子をオペラグラスで凝視しがちだった。明日はもう少し広く観ようと思う。

 

三幕は話が酷過ぎるので苦手なんだが、二人が最後に向かうにつれ、息を詰めてミリアムの命が尽きるのを見守ったかのよう。いやいやいやもう、本当に、胸をガシッと掴まれて揺さぶられた。。もうだめだ。。。

 

なぜマノンはあんな最後を迎えなければならなかったんだろう。マノンはどうしたら幸せになれたんだろう。マノン、全然悪くない。

 

現代の私たちが今『マノン』を見るとき、昔は悲惨だったねえみたいなことではなくて、より自分たちのこととして思ったり考えたりしたいのよね。わざわざこんな酷い話を観るのだから。

 

ちょっといったん頭と体を休めよう。明日に備えます。

f:id:cocoirodouce:20240217184305j:image

 

パリ・オペラ座バレエ団来日公演2024『白鳥の湖』2/11

最終日、行ってきた。

2月11日(日)13:30
オデット/オディール:パク・セウン 
ジークフリート王子:ジェレミー=ルー・ケール
ロットバルト:ジャック・ガストフ

 

パリ・オペラ座バレエ団2024年日本公演 「白鳥の湖」 2月11日(日)のキャスト/What's New/NBS日本舞台芸術振興会

 

降板したアマンディーヌに代わってパクさんが2度目の登場。王子はプルミエのジェレミー=ルー・ケール。

 

ジェレミーの役作りはちょっと面白い。一幕では彼がどういう王子なのか探りつつ観ていたのだけど、何にも考えてない系かな?となった後、なるほど王子辞めたいのね?となった。彼は良くも悪くも”普通”の人間で、なんで自分はこんな身分に生まれてしまったのだろう、みんなと一緒に踊りたいのに、みたいな。家庭教師との関係も怪しさはなく、監視されているから怯えている。将来王様にもなりたくないし結婚もしたくない。城の外に逃げたい。

 

パクさんの白鳥は今日も美しく、腕も脚も本当に見惚れるレベル。パクさん、ヴァランティーヌ、ハナさんと観てきて2度目のパクさん、やっぱり凄かったし、彼女が外部からパリオペに入りフレンチスタイルを身に着けてエトワールまで登りつめたその努力と才能!素晴らしい。

 

王子と白鳥のやり取りはポールマルクの時とまた違っていて、ダンサーによってこんなに変わるのねえと改めて。若干物足りなく感じたけど、しかしジェレミーにとっては、ポールマルク、ギヨームくん、ジェルマン王子と充実のエトワールたちと比較されることになり、なかなか大変だよね。(観客みんながリピーターではないけども)

ちょいちょい気になる点もあり、ほんとバレエって細かいことの積み重ねや突き詰めることで舞台というのは出来上がっているのだよね。

 

ジャックのロットバルト、ソロとてもよかったなあ。ジャックは一幕最初から不穏な雰囲気を漂わせていてあからさまに王子を操るようなところはなさそうなんだけど、威圧的な空気を漂わせてるからもう、抗えないのよね、結末も見えているのよ。

 

今回の三人のロットバルト、それぞれ全然違うタイプでおもしろかった。私はトマのがタイプかな。美しく冷酷な悪魔系。

 

パクさんはオデットとオディールをわかりやすく演じ分けるのではなく、ある意味で同じように踊っているようにも見える。というのも、王子を騙すにはオデットに似ている必要があるわけで、見るからに別人でしょ!って演じ分けちゃったら話がおかしくなるんだよね、本来は。私が一回目のパクさんの黒鳥で超感動したのは、キャラの演じわけではなく、不純物を取り除いてめちゃくちゃピュアな身体表現のみでオディールを表現しているところにだったのかもしれない。

 

そしてジェレミー王子の、騙されたことが最初は受け入れられず棒立ちになるところ、そしてその後の表現などは、この人はやはり生まれながらの王子というより”普通に生きたい”人なんだなと。

四幕のロットバトルとのバトルも、王子である身分など忘れ、ただの人になってロットバルトに立ち向かい、そして負けた。という風に解釈した。

 

しかし日本ツアーの白鳥の王子にプルミエのジェレミーを配役したのは、どういう意図があったんですかね監督。(ノミネあったらどうしようかと思った)

 

ソリストコールドバレエのことももっとたくさん書きたいんだけど、3日間で4公演、脳が疲れているのでまた思い出しつつ追記しようと思う。

 

f:id:cocoirodouce:20240212194042j:image

パリ・オペラ座バレエ団来日公演2024『白鳥の湖』2/10(マチネ/ソワレ)

2024年のパリオペ来日公演『白鳥の湖』、本日はマチソワ。

 

2月10日(土)13:30
オデット/オディール:ヴァランティーヌ・コラサント
ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ
ロットバルト:アントニオ・コンフォルティ

パリ・オペラ座バレエ団2024年日本公演 「白鳥の湖」 2月10日(土)マチネのキャスト

 

マチネの注目はもちろん新エトワールのディオップくん。なんという逸材!これは大抜擢も納得!

まずとにかく美しい身体条件。長く細くまっすぐな脚。ひざ下何センチあるんでしょうか。まだ若く線が細いので、その長い手足を持て余すかのようでもある。しかしまあよくぞバレエをやってくれました、そして育ててくれましたよね。

大人になることを求められ悩める少年王子を地でいくかのよう。今のこの年齢だからこその王子像。ソロはもう完璧なのだ。柔らかく美しいアームス、見事なジャンプ、長い脚が正確なポジションで柔らかく美しくなめらかに語る。逸材!こういうダンサーが登場するのだよね…(溜息)

一方で、踊りと踊りの間の時間、例えば歩いて移動するときなどに王子ではなく素を感じることがあった。パートナーシップであったり、ケミストリーであったり、舞台を最初から最後まで繋がったひとつの物語にするところまでには、まだ成長と経験が必要なんだろう。これからが楽しみである。

 

そしてヴァランティーヌの白鳥は安心安定のオペラ座スタイルで、ヴァランティーヌ自身にテクニックがあって脚が強くても、余計なことはしない、やりすぎない。すべては踊りで語るのだ。素敵。そういえばインスタで見たのだと思うけどヴァランティーヌのコーチはアニエスだったよね。私の好みであるはずだ。

 

で、白鳥は上からも観たかったのでこの回は4階正面を取ったのだけど、コールドバレエの美しさを堪能した!特に2幕4幕の白鳥たちのコールドは上から観るの本当におすすめ。あの複雑なフォーメーションの変化、魂を共有しているかのような動き、4階から見下ろしているとほんとによくわかって、あのレベルのダンサーたちがこの人数揃っていて、あのクオリティで毎回踊るって、すさまじいよな。

1幕の男性コールドの踊りまくりの場面も大好きで、あそこも本当に複雑な構成になっている。2/9は舞台に近い距離からコールドの内部をのぞき込むかのような、そしてこの回は遠目からヌレエフの考えたコールドの理想形みたいなものを見た。

コールドであっても振付はヌレエフの鬼振付なので、ダンサーたちは疲労していると思うけど、パリオペの底力を見せてくれている。

 

そしてソワレ。こちらのチケットは二次販売で追加したもの。2階正面から。

2月10日(土)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ
ロットバルト:トマ・ドキール

パリ・オペラ座バレエ団2024年日本公演 「白鳥の湖」 2月10日(土)ソワレのキャスト

 

最初はこのキャスト取ってなかったのよね。(理由は割愛)

しかしこちらのジェルマンのインタビューを読んで、やっぱりジェルマン王子も観たいかも…と思っていたところ、二次販売で良席を押さえることができて。

balletchannel.jp

 

「僕と一緒に、物語の世界を生きてほしい」ですよ!?

そう言われたら、ねえ。そして実際に、ジェルマンの王子はまさしく”王子の物語”であり、”王子と家庭教師ヴォルフガングの物語”であり、ヌレエフ版ならではの様々な妄想が可能な素晴らしい出来だった。

ポール・マルク、ギヨーム・ディオップと若いエトワールが素晴らしいパフォーマンスを見せる中、ジェルマンがどんな王子を見せてくれるのか。

いやー、舞台と物語を導く力、これが経験と成熟なのだろうか。ジェルマンは舞台上で常に王子として生きており、ただ立っていても、ただ歩いていても、王子が何を考えているか、なぜそうしているのかが伝わる。すべて理由があってそうなっているのだと思える。空白になる”つなぎ”がないのだ。

ポールマルクやディオップくんがジャンプで拍手をもらうなら、私はジェルマンのプレパレーションに拍手したいくらいだよ!ああそのアームスきれい(拍手)、タンデュがきれい(拍手)みたいな感じだよ私の脳内は(笑)

 

そしてトマ・ドキールがよかった!一幕の王子との視線の交わし方、王子を翻弄する態度、冷たい笑み、めっちゃ好みだった!これはジェルマンとトマで作り上げたものだろうけど。ジェルマン王子が好きなのは家庭教師ヴォルフガングで、王子は彼に気にいられたいのにままならない。思い通りにならず悩み傷つき、周りからは結婚を迫られる。ジェルマン王子かわいそう…。(悲劇のジェルマン大好き)

 

なので二幕で出会うオデットとは、中身の人間にではなく美しい白鳥という生き物に惹かれた気がする。人間ではなく白鳥。美しい生き物に出会い現実を忘れることができた。

 

もう私の中ではジェルマンとトマの物語で、3回目ということもあって2人に集中して観られた。三幕の不敵なトマよ!いいわあ、もっとやっていいよ(笑)。あとロットバルトにはマントをバッサーとやってほしいのだけど、トマは見事にバッサーとやってた。脚がきれいなのでジェルマンと対峙してもいいよね。だから組ませてるのかもしれないけど。

最後、王子とロットバルトのバトル、横たわる王子を踏み越えて行くロットバルトが最後に冷酷な笑顔を見せて本当に良かった!(壊)

悲惨な最後が似合いすぎるのよジェルマン王子…ありがとう……観に行ってよかった!!

 

ハナさんの白鳥は思ってたよりはよかったかも。私の好みではないけども。

ジェルマンの相手には同じくフレンチスタイルを体現するダンサーで観たいのよねえ。

 

しかし、やはりマチソワは疲れるね。脳が疲れて大変。

明日はもう白鳥最終日。ちゃんと寝なくては。

 

f:id:cocoirodouce:20240212194008j:image

パリ・オペラ座バレエ団来日公演2024『白鳥の湖』2/9

心待ちにしていたパリオペラ座バレエ団来日公演!!!

www.nbs.or.jp

ダンサーの皆さんが来日するなり元気におでかけしまくってて、雪で転んだりしないでねなどと勝手に心配したりもしたけど、無用だった。素晴らしかった。

 

2月9日(金)18:30
オデット/オディール:パク・セウン
ジークフリート王子:ポール・マルク
ロットバルト:ジャック・ガストフ

 

私にとっての初日。オケが鳴った瞬間からもうだめだった。ポール・マルクの踊りは柔らかく美しく丁寧で、無駄がなく正確でテクニックもあり、ヌレエフ版の難しさを一切感じさせない。いやはや。ポール王子は悩める王子というより苦しむ子供のようで、家庭教師に言われるがまま操られている感じ。誰か助けてあげてー(涙)

 

そして出会うパクさんのオデット。強くて美しくて、白鳥の女王!圧倒的に女王!そして意外にも情熱的でもある。あの強くて美しい脚!語る脚、語るアームス。いやあ、納得のエトワールの存在感。ポールマルクとのコンビはさすがである。なんと美しいペア。

 

パリオペの白鳥はパリでも東京でも何度も観ている作品なのだけど、今日の席は今までにない距離と角度で、ダンサーたちの人間味というか、ダンサーがさまざまな生身の人間の集団であるというのが感じられて、新鮮な気持ちで観た。コールドのフォーメーションの美しさや変化の複雑さなどを見るには向かないのだけど、ダンサーを間近に感じられて新たな経験。フォーメーションなどは明日以降、堪能するね。

 

パクさんのオディールがカッコよくてさあ!”悪女”とかではなくて、カッコいいの!あの強い脚が語るので、妖艶にとか悪女っぽくとかそういう演技をする必要がない。強くてカッコよくて美しいオディールに落ちるしかなかったのよポール王子…かわいそうに…。

 

それで四幕になると、オデットは王子の裏切りによってめっちゃ弱り儚くて、あれほど二幕と四幕のオデットが違って見えたの初めてかもしれない。二幕のあの白鳥の女王を、こんなにも傷つけ弱らせてしまった、もう王子にはそれを償うことはできないのよ…。はぁぁ、苦しく切ない。

 

ロットバルトのジャック・ガストフも含め、もちろんコールドバレエも含め、素晴らしい舞台だった。来日公演ありがとう。明日からも楽しみすぎる。

 

パリ・オペラ座バレエ団2024年日本公演 「白鳥の湖」 2月9日(金)のキャスト/What's New/NBS日本舞台芸術振興会

 

 

まもなくパリオペラ座バレエ団来日公演

なかなか更新できず書きそびれた作品がいくつかあるけど、過去は割り切って未来について書こう(笑)

まもなく、パリオペラ座バレエ団日本公演、開幕。

www.nbs.or.jp


2月8日(木)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ
ロットバルト:トマ・ドキール

2月9日(金)18:30
オデット/オディール:パク・セウン
ジークフリート王子:ポール・マルク
ロットバルト:ジャック・ガストフ

2月10日(土)13:30
オデット/オディール:ヴァランティーヌ・コラサント
ジークフリート王子:ギヨーム・ディオップ
ロットバルト:アントニオ・コンフォルティ

2月10日(土)18:30
オデット/オディール:オニール八菜
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ
ロットバルト:トマ・ドキール

2月11日(日)13:30
オデット/オディール:パク・セウン *
ジークフリート王子:ジェレミー=ルー・ケール
ロットバルト:ジャック・ガストフ

 

オペラ座の皆さんも到着し、いよいよ近づいてきたんだなーとワクワク。

まず今週は『白鳥の湖』5公演。残念な知らせもあった。アマンディーヌが来ないー(涙)理由はわからないけど、ケガや病気ではなさそうなので、また次の機会を待つね。

アマンディーヌの代わりにパクさんが踊ることになり、元々パクさんとポールマルクの日のチケットを取っていた私は、二次販売で追加してしまったのであった…4回観に行きます…チケット代……(遠い目)

 

でもいいの!4年ぶりだから!!!

 

今年、バレエの祭典会員になっていまして、散々悩んだ末に第1希望はパク/マルクの日、第2希望をアマンディーヌ/ケールにし、白鳥は上からも観たかったのでヴァランティーヌ/ディオップの日は3階席を取っていた。

そこにアマンディーヌの変更があったため、パクさん2回見るのはいいのだけど、それならハナ/ジェルマンももしチケット取れたら追加しようかな、となり二次販売でゲットできてしまった。チケ取りスキルが衰えていなかった…。

 

今回初めて全幕主役で観る新エトワールのギヨーム・ディオップや、プルミエで抜擢されてるジェレミー・ルー・ケールも楽しみ。いや楽しみしかない。

今となってはどのキャストもそれぞれに楽しみ。男性コールドが踊りまくる1幕も大好きだし、2幕はもちろん見どころ多いし、言い始めてたらきりがないのでこのくらいにするけど、パリオペの『白鳥の湖』は私が一番回数観ている演目で、ある意味パリオペの洗礼を受けたともいえる作品。できればその他のソリストの配役も早く知りたい。

 

私の初日は2月9日です。健康第一。

 

そして来週は『マノン』、こちらについてはまた来週書こう。白鳥とマノン両方のことを考えるには私のキャパが足りない。とにかく『マノン』のキャストのみんな、元気に来日してね!祈願!特にミリアム!!!

 

ところで『白鳥の湖』のチケットは売り切れてるけど、『マノン』はまだ買える。

「迷っているなら買っておけ」

が私が過去の自分から学んだこと。過去の公演はお金では買えないの。その後悔の結果、今回の私は7回である。(これ以上はいけない)

 

パリオペの『マノン』はいい。マクミラン作品なので本家はロイヤルなんだろうが、原作の物語の舞台であるフランスのあの空気が当たり前に漂うのがパリオペであり、パリオペの魅力と説得力。衣装も素敵だし、舞台の隅々まで眼福。

ストーリーがあれなので小さい子供連れには悩ましいかもしれないけど、若い人がパリオペのあの世界を目の当たりにするのは超貴重な機会だと思うんだよね。満席になるといいなあ!

 

大雪警報が出ている今日の東京。ダンサーの皆さんどうかご無事で。

 

Vous n'aurez pas ma haine(ぼくは君たちを憎まないことにした)

パリであのテロがあったときの衝撃が自分の中で薄れていることに気づいた。

しかしあの最中にいた人たちにとっては、そう簡単には薄れたりしないだろう…。

nikiumanai.com

 

妻をバタクランで亡くしたアントワーヌ・レリスが書いた本が元になっている。妻が死んだのだとわかった後、息子と二人残されて、その心境をFacebookに書いた内容が世界中で話題になった。

テロ直後の衝撃の中で、街中がピリピリし過剰なまでに警戒感を持ち、イスラム教徒を敵視する空気が満ちている中で、「君たちを憎まない」と、遺族が世界に向けて表明する。そのインパクト。

 

しかしアントワーヌが犯人らを憎まないと決めても、怒りや悲しみが薄まるわけじゃないのよね。自分自身への宣言であり、母親を失った幼い息子のためにそうでなければならないと、そうありたいと願うこと、それと同時に、そうではいられない現実との狭間で傷つきまくるアントワーヌ。辛い。小さい子の親であっても、どうにも感情が抑えられない瞬間もある。状況がわからないくらい小さい子だからこそ、キツイこともある。

 

それにしてもあの子役との演技はどうやって撮影したのだろうかと、感心すると同時に心配にもなった。怒鳴ったりするのは大丈夫なんだろうか、とか。きっと万全にケアされているのだと思うけども。

 

そしてあの「人生を楽しむ」ことへのフランス人らの強さというのも、ほんとにああだよなあと思い出す。彼らの生きる力はすごい。一緒に暮らすと圧倒される。私は圧倒された。「何のために生きているのか、楽しむためだろう?」という当然の前提というかね。

バタクランを生き延びた友人の、友を亡くした痛みと生き延びてしまった自分、でもそれでも今まで通り人生を謳歌するのだ!という強い決意ね。

 

よく憎しみの連鎖と言われるけど、その鎖を断ち切ることは簡単じゃない。めちゃくちゃ苦しい。現在進行形で起きている戦争のことを考えると、不可能かもしれない…と思ってしまう。人としてどう生きるか、という選択。重い。

 

As bestas(理想郷)

この映画、なかなかの余韻である。

unpfilm.com

 

なぜ邦題が『理想郷』とされたのか。その実は(原題も)対極であるのに。そのギャップを狙っているんだろうか。

 

何をどうしたってわかりあえない、残念ながらそういう関係はある。普段自分のまわりにいる人は自分となんらかの共通点を持っている人が大半だけど、でも実際には、なんの共通点も持たない、言葉が通じない(日本語同士であっても)人もいるわけで。

 

アントワーヌとオルガ、フランス人夫婦がスペインの田舎の村に移住し、有機農法で野菜を育て、マルシェで売り生活している。そこは廃れた貧しい村で、隣人は52歳と45歳の兄弟とその母親。

 

この映画では、フランス人とスペイン人、都会から来たよそ者と田舎しか知らない土地の人間、教養と無教養、夫と妻、母と娘、自然やお金への価値観の違い、といった様々な対立が描かれる。”よそ者”アントワーヌへの隣人の仕打ちは見るに堪えない。信じられないほどの愚かさ、野蛮さ。

 

同時に、残酷だよなとも思う。広い世界を知る者と知らない者。選択肢のある者とない者。妻のある者とない者。「俺たちだって女がほしい」という一言にいろんなことが詰まっている。彼らは”野獣”になるしかなかったんだろうか。ならずに済むにはどうしたらよかったんだろうか。

 

オルガの暮らしは見ていてハラハラしたし、娘が滞在していた時にはあの村に若い女性はやばい!逃げて!!と思った。私には無理だわ、あの環境。。

 

男性同士の村コミュニティ内での付き合い、関係性もめちゃくちゃ陰湿で、やはりメンバーが固定され少人数で逃げ場がないというのは地獄だね。自分がああいう村に生まれ育っていたらどうなってしまうんだろう。しかもこの映画、現実に起きた事件を元にしているというから。。(怖)

 

”よそ者”の側も、自分たちが外から持ち込んだ”理想”を追い求めることが、地元の人からどう見えるかという視点も必要なんだろうな。よかれと思ったことが、というのはいかにもありそうな話だし、それが自分の身を危険にさらすかもしれないわけだから。地元民と同じことをしても敵視されるかもしれない。難しいね。。

 

人間にはどうしてもこういう面がある、ということなんだろうか。それが現実だとしても、なんとかできると思いたいものだ…。

 

Mon crime (私がやりました)

フランソワ・オゾン監督、≪Mon crime≫は女性をメインにしたコメディタッチの作品。

gaga.ne.jp

 

軽妙な台詞が飛び交い、あーオゾンっぽいーという雰囲気。1930年代のフランス、パリとその周辺が舞台で、事件があったのはヌイイの豪邸。建築やインテリア、ファッションもいいよねー。

 

描かれてるのはまだ女性に参政権がなかった時代であり、女性が男性に依存せざるをえなかったり、不当に扱われたり、といった社会背景を踏まえている。なので、作品の雰囲気はコメディっぽいんだけど、含まれているテーマは重くもある。

 

体面を重んじる地位ある男性、偏見や先入観で女性を断罪する権力者、権力をかさに若い女性を好きに操ろうとするプロデューサー、自分の身勝手さに全く無自覚な彼氏、など、現代にもごろごろいそうな男性たち。そしてそれに抵抗し、知性や機転やある種の狡猾さを武器にサバイブする女性たち。少数派だけどまともな男性も出てくるよ。(笑)

 

図らずもユペール様出演作を2本続けてみたわけだが、演じる役柄のふり幅の広さよ!無声映画からトーキーへと時代が移り変わり仕事を失っていったベテラン大女優の役。強烈な個性。

 

フランス映画界は女性の監督も増えたし、俳優と監督の両方をやる人も多い。監督も俳優も、邦画の世界ももっといろんな背景を持つ人がいろんなテーマで作品を作るようになってほしい。なんか毎度同じような予告編見せられてる気がしてね…。

 

しかし、フランスにおいてもいろんな差別や偏見があってそれと戦って来たんだよね。もちろん現在も完璧ではないが、日本とは段階が違うというか、前提が違うというか。でもまあ微力でも戦わねばね。

La Syndicaliste(私はモーリーン・カーニー)

イザベル・ユペール主演≪La Syndicaliste≫、予想とは違った意味で重い内容だった。

 

フランスの原子力企業アレヴァの労組書記長を長く勤め、当時アレヴァのトップだった”アトミック・アンヌ”とも親しかったモーリーン。フランスのお家芸的な原子力産業の大企業、そのCEOが女性なんだなフランスは、と当時は思ったものだった。

 

冒頭で、すでにアンヌの地位は危うい。そしてその後継者と予想されるウルセルとは対立関係にある。アンヌに比べたら「彼は経験不足」と言うモーリーンに「男に能力は要求されない」(うろ覚え)と返すアンヌ。

これ、フランスでの話だけど、まさしく男性の履いてる高い下駄よね。女性の登用にはやたらと性別より能力だのなんだのと言うわりに凡庸な(無能な)男性はいくらでも存在しているという。。。

 

映画全編を通して、女性であるがゆえの”不利益”について取り上げていると思う。被害に遭うことも、被害の中身も、捜査における扱い、裁判での扱い…。モーリーンが男性であったら絶対にこういう展開にはならなかったはず。(本作は実話ベース)

 

≪La Syndicaliste≫という原題から(組合活動家の意味)、企業内で権力と闘う女性の話なのかなと思っていた。でも、モーリーンの権力との戦いは、始めることすらできない。相手はEDF、秘密裏に中国企業との提携を画策しているとの情報を得たモーリーンだけど、それを真面目に取り上げてくれる人、話を聞いてくれる人はなかなか現れず、脅迫電話などの嫌がらせが頻発していく。オランド大統領(当時)との面会が叶おうとしている時、事件が起きる。

実話だと思って見ると耐え難い。そして捜査員の姿勢にも腹が立つ。

 

アレヴァやEDF、政治家や経営者、巨大権力による裏工作などに切り込んでいく作品かと思ってたら、モーリーン自身に降りかかった、個人が背負うにはあまりに重い現実を描いた作品だった。2010年代のフランスにおいても、こんなことがまかり通ろうとしていたとは。

 

酷い話であると同時に、こうやって映画になり、当時の大統領や大臣、大企業トップらが実名で登場し、社会を批判的に描ける点では羨ましくもある。邦画にはないジャンルなのでは。

 

そして犯人は今もわからず、野放しなのだ。闇は深い。

 

日本の公式ページがちゃんと表示されなかったので仏語のwikiでモーリーンのとこ読んだらアイルランド出身家族なのね。それで姓が「カーニー」(映画では仏語読みされてるが)で英語教師なんだね。

 

それにしてもユペール様はほんとすごいな。

なんかこう、こういう女性がいるということ自体に勇気を貰えるレベル。

 

HYPNOTIC(ドミノ)

普段あまり見ないタイプの映画見た。

gaga.ne.jp

 

事前情報なく見たけど結構おもしろかった。終始何がなんだかよくわからなくて、このシナリオ考えたのすごいなー。そして90分ちょっとなのもよい。話が早い。

 

ネタばれにならないように感想を書くのが難しい映画。書けることがあまりない(笑)。邦画にこういうのは作れないんだろうなあ、みたいなことしか言えぬ。なんだかんだでハリウッドにはオリジナルのエンタメを作る力があるよね。資金の厚み、人材の厚み、なんだろうか。

あとは普段からの社会や世界への興味よね。自分の身の回り以外にどれくらい興味を持ち視野広くいられるか。それなしには、結局作品テーマが小さく身近にまとまってしまうんだと思う。もっと多様なテーマ、幅広い年代・性別の俳優が活躍するような、そうなってほしい。