アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

Les Misérables(レ・ミゼラブル)

2019年カンヌで審査員賞、先日のセザールでも最優秀作品賞を獲ったラジ・リ監督の映画『レ・ミゼラブル』。

タイトルだけだとあの”レミゼ”を思い浮かべる人が多いだろうけど、これは現代フランスの、ヒリヒリするほどのリアル。

 

映画「レ・ミゼラブル」公式サイト
 

凄い映画だった。パリに住んだことがあるのでフランスの多様さは一応知ってるし感覚としても少しはわかるし(理解してるなんて傲慢なことは絶対に言えない)、ジレ・ジョーヌの運動が暴動に発展するなど過激化する面もニュースで知ってはいた。パリオペ的なものだけがフランスではないと、当然知ってます。パリ市内であってもカルティエによって全然雰囲気が違うし、当時は怖いと感じたこともあった。けれども、それも全部含めて、それがパリ。

 

が、しかし、その”暗部”に入り込んでこれほどまでに描くこの映画には、ガツンとやられた。よそ者には到底見ることのできない現実を、監督が見せてくれている。

 

パリ郊外のシテが舞台。(シテは低所得者向けに作られた団地)そこに住む彼らのことをなんと説明したらいいものか悩む。彼らは間違いなくフランス人であり、不法移民とは違う。けれども人種や宗教、おそらく家庭の収入や教育のレベルなど、いくつもの要因が重なって社会からはじかれていると感じている。

そして警察という権力によって脅され、地元を仕切るギャングに脅され、何重にも抑圧されている子供たちがいる。

 

登場する警察のチームが横暴すぎる。地元民に対する”恐怖政治”。「俺が法律だ!」とまで叫ぶ。そして実はそのチーム内でも、威嚇によって関係が成り立っている。そこに入った新人ステファンの良心だけが観る者の救い。

 

しかし恐らく、クリスだって最初からああだったわけじゃないんだろうな…状況の厳しさに適応せざるを得ず、徐々に心を失い、ああなった。

 

ヒドイ1日を過ごした後、チーム3人がそれぞれ自宅で過ごす場面があるのが、本当はみんなごくありふれた人間なのに、という思いを起こさせる。

 

警察もギャングも、そして私も、子供たちの怒りを甘く見ていたのだ。恐ろしいほどの怒りの集積と爆発。残り30分を過ぎたあたりからかな、もう心臓がバクバクしっぱなしで、映画館を出てからもしばらく呆然としてしまった。最後の場面、あの後どうなっただろうか。

 

社会の分断を描いた映画が目立って評価されているように感じる昨今だけど、例えば『パラサイト』がある意味ファンタジーというか、記号化されたキャラクターで描かれているのに対して、この『レ・ミゼラブル』は圧倒的にリアルで容赦がない。グサッと突き付けられる。

 

いやーー、いい映画を観た。衝撃。

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