アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

世界バレエフェスティバル2021 Aプロ

まさかの開催、バレエフェス。

 

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2021年8月16日14時 東京文化会館

 

正直なところ、中止か延期だと思っていた。ガラも中止になっていたし、公演まで2週間を切っても詳細情報が出なかったので。それに、1席空けてのチケット販売ではなかったし、客席の密度も気になる。ダンサーらに何かあってもちゃんと対応ができないのではないかという心配もある。

 

複雑な気持ちを抱えながらAプロ最終日の会場に向かったのだけど、ダンサーたちというのはすごいね、彼らを目の前にしたら現実世界を忘れるかのよう。それが一瞬だとしても。

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入国制限の影響などで出演者数が減り、いつもより短い3部制。観る方の体力を考えるとこれくらいがいいのかもしれないね。4時間超えだと集中力も持たないし。

 

やっぱり生オケはいいね~。開演前のあの雰囲気。

 

いきなりマチアスが登場する構成で、つまりいきなり泣いたんだけど(笑)、ブルノンヴィルの「ゼンツァーノの花祭り」といういかにもクラシカルでごまかしの効かない作品を、どこから見ても美しく踊るマチアス。クラシックバレエの神髄とでもいうか、もっとシンプルに神とでもいうか、なんて尊い存在なんだろうかとただただ感嘆。踊ってくれてありがとう。。。うぅ。(思い出し涙)

パートナーがオニール八菜ということで、身長のバランスとかリフトが少ないとかいろいろ考慮しての選択なんだろうなと想像するけど、結果、マチアスの美しい足さばきが堪能できたのかもしれない。

 

一方、ユーゴが間に合わずに急遽フォーゲルがパートナーとなったドロテの「オネーギン」1幕PDDは、限られた時間で挑戦したことはすごいと思うものの、やはり無理があったのでは。どちらも加減しているというか、思い切りが感じられなかったし、フォーゲルは1日に2回オネーギンのPDDを踊る身体的負担も大きかっただろう。ドラマが感じられず、ただ踊ってるだけに見えるんだよね。ユーゴ出られなくて残念。(なんで間に合わなかったのだろうか)

 

二部ではなんといってもアマンディーヌとマチューの「ダイヤモンド」。パリオペのあのキラッキラの衣装のマチューが舞台に現れて、なんかもうあまりのキラッキラっぷりに笑ってしまったくらい。なんてゴージャスな二人。あのゆったりとした、これ見よがしなテクニックではない演目というのはダンサーの存在自体が超重要。ここまで美しい人間というのが存在するのだな、人間ここまで美しくなれるのだな、美の極み、などと思いながら観た。存在自体が芸術。ちなみに前回はミリアムとマチアスのダイヤモンドに感動したのだった。

 

その直後の「マノン」寝室のPDDは、正直残念だった。金子扶生さんが急遽出演することになりワディムと組んだわけだけど、本拠地で全幕マノン踊ったことはあったのだろうか。ワディムのデ・グリューは超好みの私なのだけど、今回はまるで響かなかった。ドラマチックバレエのPDDは、全幕を知った上でその抜粋、物語の一部として観ている(と思う)。ペアとして全幕を経験した上での一部抜粋なのか、PDDだけ練習したのかでは、だいぶ違うのでは。なんとなく「習ってきました」みたいな雰囲気を感じてしまった。あと、アマンディーヌの直後というのはちょっとかわいそうだったかも。順番逆の方がよかったかもね。

 

そして、フェリとゴメスによる「ル・パルク」ですよ。皆さんはどんな感想だろうか。

私はこれ、ものすごく複雑な気持ちで観た。期待もあった。何年前だったか、ルグリ様とゲラン様によるこのPDDを観て猛烈に感動したから。ベテランダンサーたちの作る世界に圧倒された。しかし残念ながら今回はそうはならなかった。もちろんそれぞれのダンサーが持つ個性や経験がにじみ出るのだからそれぞれ違っていいのだけど、体力的、技術的なことから振付を”容赦”しなくてはいけないのなら、そもそもこのPDDを選ぶべきではなかったのではないか。

よく知る作品なだけに、”変えている”ところがわかってしまう。それによって欠けてしまうことも、ありありとわかってしまう。辛い。

 

それでね、前回のバレエフェスの時のメモを読み返したらフェリとゴメスに感動してたんだよね。

【東京】世界バレエフェスティバル Aプロ - アートなしには生きられない

 

だって世界バレエフェスティバルですからね。みんな超一流のダンサーたちによる超一流のパフォーマンスを観たいよね。今の彼らにしかできない、今の彼らだからこそのパフォーマンスを。

 

本当に、演目選びって大事だなあと実感する。

 

長くなるのでここからはささっと。「海賊」のキム・キミンのジャンプはさすがね。Bプロではマチアスが海賊踊るんだよねー。楽しみだな。

あと、今回はアジア人ダンサーが複数出演していてこの傾向はいいなと思った。ヨーロッパのメジャーカンパニーで主役を張るダンサーが増えているのはすごいことだよね。

 

第三部ではバデネスとフォーゲルによる「オネーギン」三幕PDDは素晴らしかった。抜粋なのにちゃんとドラマが見える。「これこれ、これですよ!」となったよ。さすが本家、お互いをよく知るパートナーであることは大きいんだろうな。バデネスは来日公演の時マチューオネーギンと踊ったのを観たんだけど、あの時感じた物足りなさは全然なくて、引き裂かれる心が伝わってきて感動した。(なのでやっぱりドロテとのは残念だった)

 

ザハロワの「瀕死の白鳥」は急遽実現した演目だけど、白鳥を踊るために生まれてきたかのような身体条件を持ってるザハロワの今の瀕死の白鳥を見られたことは幸運だったかも。昔パリオペ「白鳥の湖」に客演した時の違和感を強烈に覚えてるんだけど、きっと彼女があまりにも白鳥だからなんだよね。(笑)

 

そしてトリのアレクサンドロワとラントラートフは常連のベテランらしい踊りと振舞いでフェスを盛り上げていた。さすがだ。こういう人たちが必要だ。

 

おもしろいなあと思ったのがロシア系のみなさんはカーテンコールでもめっちゃ演じてる感があって、素に戻って出てくる他の皆さんと対比が鮮明だった。あれって日ごろからそうなのかな。

 

最後、いつもの眠りのあの曲が流れてのフィナーレ。ステージいっぱいに並んだダンサーの皆さん、本当によく来てくれたよね。

Bプロ最終日まで、みんなが無事過ごせますように。

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