アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

ファビュラ・コレクティブ『HUMAN.』

ずっと気になっていたファビュラ・コレクティブのHUMAN.

直前になってチケット買った。

 

www.fabulacollective.co.uk

 

イギリスの作家3人の作品から狂気をテーマにしたトリプルビル。

マクベス夫人」はクリストファー・マーニー振付。マーニーさんと言えばマシュー・ボーンスワン・レイクの王子役(ザ・スワンはもちろんマルセロ・ゴメス)の記憶が鮮明。今回は振付家としての参加。

マクベス夫人役のチラ・ロビンソンの演技力、表現力が場を支配していた。王座が効果的に使われていて、マシュー版白鳥を知っているとつい連想してしまったりもして。演劇的でたしかにブリティッシュだ。マクベス夫人の悪というより苦悩、そうせざるを得なかった悲しさみたいなものを感じた。

 

「Everything Would Be Nonsense」はトラヴィス・クローセンナイト振付。これは日本人ダンサー4人によって踊られたのだけど、いろいろ考えさせられた。作品は緊張感があって始まり方もおもしろい。ちょっと長かったかなと思ったけど(緊張感を強いられるので疲労した)、岩瀬斗羽さんよかった。今年スクールを卒業したばかりって驚き。

 

「Dorian Gray」はジェームズ・ペットが振付、自身がドリアン・グレイを踊る。トラヴィスとのデュオ。これは素晴らしかったな。ライティングもいいし、2人の駆け引き、バチバチ感があって引き込まれる。テーマである”狂気”を一番感じたのがこれかもしれない。

公演後のトークショーでジェームズが、狂気を演じるためには内的外的な刺激が必要でスタジオでは難しいこともあるのだけど、劇場では観客の存在によって演じることができる、それくらい観客の存在は重要なんだ、といったことを言っていた。やはり生の舞台を観る・演じる醍醐味というのはそういうことなんだろうなと、迷いながらも足を運んでよかったとジーンとした。

 

3作品ともライティングがよくて、ライティングの役割の重要さを感じる。大きくはない舞台、少ない演者でも見ごたえある作品は作れるわけで、こういうトリプルビルは満足度も高い。

日本人ダンサー4人が出てきた時に小ささを感じたのは、実際の身長や骨格によるものなのか、身体の使い方によるのか、私の色眼鏡なのか、日本人が相対的に幼く見えることについて、それは見た目ではなく内面から出るものなのか、内面の成熟についてどれくらい重要視されているか、といったことをぐるぐる考えた。

ダンスは身体表現だから、やはり身長がある程度あって手足の長さがある方が有利なのか、いやいやそうとも限らないよな、各ダンサーの個性もあるし、まあ全体として相対的な傾向を見るとしたら、みたいな。

 

ダンサーに限らないけど、「バレエ頑張ってます!」だけでは済まないのがプロの世界であり芸術の世界だと思うので、厳しいよね、舞台上ではいろいろなことが見えてしまう。

 

とても刺激的で色々なことを投げかけるトリプルビル。いい公演だったー。

そしてトークの司会と通訳さんも素晴らしくて作品への理解が深まった。

 

チケットを買うのも、劇場に足を運ぶのも、葛藤なしにはいかないコロナ禍。それでも「アートは生きている」というのを感じさせてくれた。

 

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