アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

ロイヤルとパリオペの『ジゼル』見比べ

同時期にロイヤルとパリオペそれぞれの『ジゼル』がオンラインで観られるということで、ロイヤルを見るとパリオペが見たくなり、パリオペを見てはまたロイヤル、というように、こんなにまじめにジゼル見たことあった??という状況に。(笑)

 

ロイヤルは視聴期間終了しちゃったけど、パリオペは今からでも見られます。30日間レンタル。

chezsoi.operadeparis.fr

 

同じ場面を見比べて、こんな違いがあるんだなとか、ここはこういうことだったのかとか、発見があってとてもおもしろかった。

 

2幕で違いが顕著なのだが、”あの世”な雰囲気の作り方が、パリオペはライティングが青白くそれが夜中の森の中であり現実界との違いを作ってるのに対して、ロイヤルはライティングの色味はわりと普通でその代わりにミルタやウィリたちの”死人メイク”が濃い。死んだばかりのジゼルのメイクはわりと人間風で、アルブレヒトはもちろん生きてる人間の顔色。パリオペはジゼル含めウィリたちのメイクは「白」。

 

そして振付や踊り方にも違いが大きく、例えばロイヤルのジゼルはアルブレヒトにリフトされて脚をニョキっと真上に上げたりするのだが、パリオペではやらない。パリオペはアロンジェの腕も高く上げないし、脚もあまり高く上げない。これはポリシーだと思われる。アラベスクの脚も、ヤスミンはわりと高めに上げるんだよね。腕も高い。ドロテは死人であることに徹している感じがする。足を高く上げて見せること、跳んで見せること、といったことから徹底的に遠い。

ヤスミンの2幕がちょっと生き生きしすぎに私には見えたのはこれが理由かなと思った。ヤスミンもマシューもまだ若いのでいくらでもやれてしまうというのはあるのかもしれない。もしくはロイヤルのジゼルはまだ半分人間であちらの世界へと入る前であるという解釈とか。それなら色味もわかる。

 

振付以外の立ち振舞いも、ロイヤルが演劇的でより”普通の人間の立ち振舞い”をするのに対してパリはあくまでバレエの世界の立ち振舞いをする。これはどちらがいいということではないが、物語と登場人物をより身近に、絵本の世界を生身の人間が舞台で演じているというような作りのロイヤルと、あくまで特別な別世界の話であるパリ、と見えた。

 

2幕冒頭でマチューアルブレヒトはジゼルの墓の前で埋葬されたジゼルに寄り添うように地面で眠り、最後も同じ場所に寝そべったところから目を覚ます。あれは夢だったのか。夢を見ていたのか。いや、この花はジゼルがいたことの証拠。ああジゼル!(幕)

マシューアルブレヒトは終始意識はっきりしてる。

 

1幕での貴族の描き方も全然違うし(ロイヤルは高慢系、パリオペは寛大系)、それを演じるダンサーはロイヤルさすが。キャラクターダンサーというのがパリオペには肩書としてないし、若いダンサーが更けメイクで演じていることが多いので、そこはやはりロイヤルの演技の厚みが勝る。ここがあると、物語にリアリティが増すよね。

 

映像で何度も見ているとだんだんわかってくること、気づくことがある。生の舞台がもちろん大好きだし、あの場で感じることほどの感動は映像ではなかなか得られないけど、好きな場面だけ何度も見るとか、別バージョンを同時に見比べるとか、これはこれでなかなか学びがある。

 

ポリシーといえば、パリオペの女性ダンサーはみんなほんとにきれいなポワントを履いている。私はヤスミンの履きこんだ風のポワントがどうも気になってしまったのだが、裏もだいぶ柔らかそうだし真っ黒になってるしボックスも広そう。ああいうポワントを履いてるのパリではほとんど見ないのではないかなあと思ったけど、どうだろうか。

履きこんで底の黒いポワントはそれ自体が現実世界の”リアリティ”って感じで、『ジゼル』の幽玄の世界観とは相容れない。気がする。気にしすぎか、私。

 

ジゼルのお墓がわりと立派なパリオペに対し、いかにも村人らしく小さく簡素なロイヤルのジゼルのお墓、あれを見た時、ああこちらの方がリアルと思ったんだが、全体的にロイヤルのほうが現実味がある作りなんだよね。演劇寄り。ロマンチックバレエとしてフレンチスタイルに徹してるのがパリオペ。美しいつま先、美しいエポールマン。優美。

 

『ジゼル』というと、ジゼルの発狂の場面をどう演じるかとか、アルブレヒトはプレイボーイ風だとか、あれは遊びだったのか本気だったのかとか、それはもうダンサーそれぞれの個性と解釈なのでどんなアルブレヒト像でもいいです。みんなそれぞれに深く作りこんでいるし演技も素晴らしい。

 

2021年は、なんと私、生の全幕バレエを一つも見ずに終わってしまった。我ながら衝撃的。

今年もまだ先が見えないけど、海外との往来ができるようになりますように。お願い。ほんとに。