アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

ハンブルクバレエ団来日公演 ≪シルヴィア≫

最終日、観に行ってきた。ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルクバレエ団。

最後の最後までノイマイヤーさんが活き活きとお元気で、これまでたくさんの作品をありがとう!!!な気持ち。

 

www.nbs.or.jp

 

実はギリギリまで観に行くか迷った『シルヴィア』。先週のノイマイヤーの世界が素晴らしすぎて上書きしたくないみたいな気持ちもちょっとあったし、あらすじなどで読む『シルヴィア』が自分向きではないような気がして。しかし杞憂であった。

 

『シルヴィア』はパリオペラ座のために作られて初演が1997年。当時もきっと斬新で衝撃があっただろうけど、時代の変化と共に観る側の視点や意識が変化しても、新たな解釈や想像ができる作品だ、と思った。

 

今の私には、シルヴィアは生来持っていた好きなことや得意なことを、人間社会(男社会)で生きるには意識的にせよ無意識にせよ捨てるしかなく、年月を経て振り返ってみると、自分が諦めたこと失ったことの大きさをしみじみと思う、というように見えた。

 

1幕のシルヴィアがあまりに生き物として美しくて、ああそのままでいて!と思わざるを得ない。でもそうはならない。

 

2幕のシルヴィアを取り囲む男たちと、その中を浮遊するシルヴィアは、『椿姫』や『マノン』を思い出させる。それはシルヴィア自身の選択だったのか、それとも選ばざるを得なかったのか。

 

3幕のシルヴィアとアミンタのPDDが切な過ぎた。ここはベテランが踊ると言葉にし難い味わいがあるものだけど、全幕で見ているからこその説得力があって胸に迫る。菅井さんもトルーシュも若いのに素晴らしい表現力。

ラストの解釈もいろいろ考えられるだろうけど、ノイマイヤーさん自身によるあらすじには「寿命」とあるから、シルヴィアはすでに死の世界にいて、そこからひと時だけ許されて、アミンタに別れを告げるためにこの世に戻ってきたのかな。

3幕ではセットの木と岩が1幕とは裏返しの配置になっていて、この世とあの世ということならなんかわかるなと。考えれば考えるほどいろいろ案が浮かびそうだけど。(笑)

 

やっぱり全幕で見るの大事だなー。全幕ものいいよねー。もっと見たいー。

 

若い時にはわからなかったこと、あるよね。あの時の自分はまだ何もわかってなかった、みたいなこと私にはいくつも思い浮かぶ。そういう誰もが持つ記憶や経験などが思い起こされるから、初演から年月が経っても古さが微塵もないのかも。

逆にとても若い人にはこの作品がどう見えるのか興味ある。

 

はあ。最後のシルヴィアのようにしみじみとしてしまう。

観に行ってよかった。迷ったら観ておけはやはり正しい。

 

【後日追記】

SNSなどで様々な感想を見るにつけ、なるほどなーなどと思いつつ解釈を考えたりしている。

その中で思ったのが、以前から『シルヴィア』を知っている、過去の公演も観ている人の方が、この作品への抵抗感があるのかもしれないなと思った。過去の上演時の解釈であったり、元の神話のストーリーであったりを前提にする方が、女性としてシルヴィアの描かれ方に納得がいかない、というような。人間の男性と関わったことでニンフの集団から追い出される、そしてシルヴィアは人間の男性によってもたらされる”官能”によって変わってしまう、という流れとして見ると私も嫌だ。

でも不思議と今回の私にはそういう嫌悪感はなかったんだよなー。菅井さんのシルヴィアがそういう生々しさを感じさせない役作りだったのかもしれない。2部が”官能”ではなく、現代社会の”現実”に見えたからかも。そしてその世界にシルヴィアが完全に魅了されているようにも見えなかったから。現実を知り、受け入れることは必ずしも魅了されたからではなく、諦めの気持ちがあったからなのでは。もうあの森にいた頃の自分には戻れない。あの頃の自分とは同じではないのだと。

私が今回、ノイマイヤーの『シルヴィア』が普遍的だと感じたのは、この、2部を”現代社会”とみなしたからなんだと思う。だから嫌悪感もなかった、ということなんだろうと。

 

以前日本で観たマクミランの『マノン』で強烈に感じたことなんだけど、パリオペやロイヤルが上演するマノン像と、日本のカンパニーが上演するマノン像があまりにも違い、私は日本のマノン像は本気で受け入れられない。拒否。拒絶です。(あえて具体的には書かないけども)

それを思い出すと、シルヴィアを誰が演じるか、『シルヴィア』をどこのカンパニーが上演するか、によって全く受ける印象が違ってくる可能性は大だと思う。

 

あと、当初の感想では触れなかったけど、この『シルヴィア』の物語にはディアナとエンディミオンという伏線がある。むしろ終わり方を見ればディアナの物語だったとも言えるくらい。こちらの話も辛さや虚しさを感じさせる。

 

という具合に、ハンブルクの皆さんが帰国した後でも、まだまだいろんな思いを起こさせる、そういう作品であり公演だったんだなあとあらためて観て良かった!

 

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