アートなしには生きられない

バレエ、ダンス、クラシック音楽、美術館などシンガポール・東京でのアート体験を中心に。

En corps (ダンサー イン Paris)

書いてみて気づいたんだけど、邦題、"Paris" だけ"パリ"ではなくParisなんだね。どういう意図なんだろうか。カタカナとアルファベの混ぜ方。

 

www.dancerinparis.com

 

オペラ座の現役プルミエール、マリオン・バルボーが踊るのだからダンスシーンは見応えあり。そしてさすが一流バレエダンサーの身体、鍛え抜かれた脚にほれぼれ。あれがバレエダンサーの脚だよねえ。すばらしい。ダンサーは身体そのものが芸術作品のよう。

 

そして、才能を持って生まれた者というのは、そうではない人々を美しい世界に誘う責務のようなものを負っているのかもしれないなあと思った。エリーズがブルターニュを去る時のあの決意を見て。そのために何年も努力や犠牲を積み重ね、凡人には叶わない美しい特別な世界を作り上げる。

 

もちろん、彼らは踊らずにはいられないし、誰かのために踊ることだけが努力する理由にはならないだろう。でも、舞台に立つというのは、やっぱり選ばれし者だけに許されることだし、その”特権”にエリーズは気づいたのかもしれない。

 

クラピッシュ監督とオペラ座の関わりは最近始まったものではないので、さすがによくわかってるなーという描き方。オペラ座という存在の特別感、そこに所属するダンサーたちの実は一つの怪我で人生が大きく変わってしまうかもしれない脆さ、どんな成功者であっても決して長くはないダンサー人生。完璧を目指し続ける過酷さ。

 

そこにホフェッシュ・シェクターが加わる見事さ。これは凄い。クラシックとコンテの単純な対比ではなくて、人間そのものを表現すること、ありのままの自分でよい、弱くても恐れていてもよい、これは効く。クラシックバレエの世界では理想形がありそれに近いことが条件となるけど、ホフェッシュの世界は違う。我々の大半はこれといって特別な存在ではないけども、それで全然いいのだ。

 

クラピッシュらしい笑いも多々あって全体として楽しい。多くの人が気軽に観られて楽しめるのではないか。ジョジアーヌの深さ、サブリナとロイックのカップルの掛け合いの面白さ。あとサブリナがカメラマンにケンカ売ったのよかったな!!あのカメラマン、サブリナが言いだす前から私もムカついてたんで。Bien fait, Sabrina.

 

冒頭の「ラ・バヤデール」のソロル役はジェルマンで、その後も何度か登場。いいね。ジェルマンが主役の映画もできそうだね!(勝手に期待)

 

ダンサーも振付家も多才だよなあ。踊ることと演じること、振付と演出。マリオンとホフェッシュのインタビューがサイトに載ってた。

 

それにしても”身体”への感覚の違い(日本で感じるものとの違い)というのも、あらためて考えてしまうな。日本以外では(あえて日本以外と言うけども)そこに存在する当たり前のものとして自分の身体も他人の身体も存在している。そこには赤の他人の身体を品評するような目線はないのよ。ほんと羨ましい。ずっと日本だけに暮らしてるとわからない人もいるだろうけど、マジで違うので。

 

作品そのものの深みというよりは、題材としてそこからいろんな面での自分の考えを広げるきっかけになると言う感じかな。

映画1本観て、そこに含まれるさまざまなことに気づいたり、考えたりするの楽しい。